M&A仲介会社「承継で大活況」の知られざる実像 雇用や技術、地域経済を守る一方で不満の声も

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しかし、会社のさらなる発展を考え、経営の引き継ぎについて公的機関に相談。そこで事業承継をするにはM&Aという選択肢があることを知る。そこで2人は大手のM&A仲介会社をはじめ、いろいろなところに相談してみた。迷った結果、片側のFAに徹するGCAサクセション(本社・東京都千代田区)に依頼することを決めたという。

会長と取締役は、「各社の説明を受けたところ、仲介会社は買い手側とも契約を結び、そちらの意向も踏まえて価格決定をすることがわかった。私たちはあくまで、私たちの利益の最大化を優先してくれるアドバイザーに頼みたかった。そのほうが決まった価格にも納得がいくだろうと思えたから」と経緯を語る。

このケースでは、当事者が複数の会社に相談したことで、「FA」と「仲介」の違いを理解することができた。だが、後継者不在のために「一刻も早く会社を売却したい」と考える中小企業経営者の多くは、1社だけで決めてしまう。結果、テレビコマーシャルなどでよく見かけたり、頻繁に営業のダイレクトメールを送ってきたりする仲介会社に依頼することになるというわけだ。

シナジーが不明な案件の持ち込みも

仲介会社の強みは、地方の中小零細企業の依頼であっても、全国津々浦々に張り巡らされたネットワークの中から買い手企業を探し出してくる情報網だ。そして大企業をクライアントとするFAからは相手にされないような中小企業の事業承継ニーズにも応える。それが彼らの急成長の原動力だ。

ただ、「仲介させようとするあまり、シナジーがない案件を次から次に紹介してくる」という不満の声も、買い手候補の経営者には多い。

貨物運送を手掛ける富士運輸(本社・奈良県奈良市)の松岡弘晃代表の下には、M&A仲介会社から「この重機輸送の会社、後継者がいなくて困っているんですが買いませんか?」「タンクローリーの会社とかは興味ないですか?」といった営業の電話が頻繁に入る。松岡代表はそのたびに、ため息が漏れる。

「運送業って一括りにされるけど、どの車種のトラックで何を運んでいるかが重要なポイント。それによって異業種と言えるほど違いが出るから。うちは貨物を運ぶ業者だから、重機を運ぶ会社を買ってもシナジーはまったく生まれない。タンクローリーなんてもってのほか。以前、『引っ越し屋を買いませんか』と提案してきたM&A仲介会社まであった。トラックを使うという共通項だけで持ち掛けてくるなんて、運送業のことをまるでわかっていない」

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