新学習指導要領で示された新たな方向性とは?
今、子どもたちに求められる能力が大きく変化している。ICTの目覚ましい発展による技術革新の加速や、グローバル化の進展といった変化の激しい社会に対応していく必要があるからだ。そうした状況を踏まえ、2020年度に小学校から順次適用される新学習指導要領においても、新たな方向性が示されている。
これまで大切にされてきた「子どもたちの生きる力を育む」という目標自体は変わっていない。だが、これから社会がどう変化しようとも、自ら課題を見つけて解決できるように、何を学ぶかだけではなく、どのように学ぶか、何ができるようになるかを重視して授業内容が見直されているのだ。
そこで取り入れられたのが、アクティブラーニング。子どもたちが主体的に考え、対話しながら深い学びを得ることで、学校で学んだ知識を活用し、自ら道を切り開いていく力を養うことを目指している。
日本の国力を維持するには、今までのやり方では駄目
文部科学副大臣をはじめ、自民党教育再生実行本部長などを歴任し、現在は超党派教育ICT議連(教育における情報通信〈ICT〉の利活用促進をめざす議員連盟)の会長として、教育改革をリードする衆議院議員の遠藤利明氏は次のように話す。
「戦後、日本の教育は、世界に追いつけ追い越せの掛け声の下、全国でみんなが同じ教育内容、同じスピードで、いわゆる画一的な授業を行ってきました。その当時、それは決して間違いではなく、国の総力を挙げて国力を高めるのには適したやり方だったと思っています。ただ、現在は国際化、とくに少子化が進む中では、教育を変えていく必要があります。
2019年の出生数は、過去最少の86万5234人でした。第1次ベビーブーム期の出生数が、約270万人だったことを考えると約3分の1になっています。国力を示すGDPは、基本的に人口と相関関係がありますから、単純に考えると将来的に日本の国力が3分の1になってしまう可能性がある。それを少しでも維持、あるいは高めていこうと考えると、1人が3人分の能力を発揮しないとならない。だから今までのやり方では、駄目なんです。
しかも、今の子どもたちは、昔と比べて体も脳も成長が早くなっているといいます。もちろん、大器晩成のようなゆっくりと成長する子もいますが、それぞれの子どもの成長過程に学校のシステムが追いついていないのです。だから、これまでの画一的な教育を見直して、一人ひとりの能力、個性、成長のスピードに合った多様性のある教育に変えていかなければなりません」
すでに小学校高学年で導入されている専科指導は、こうした一人ひとりに合った教育の実現を担う取り組みの1つだという。
小学校では、1人の教員が全科目を教える「学級担任制」が主流だが、専科指導は「教科担任制」を指す。専科指導の導入で、専門知識を持つ教員による充実した授業を行うのはもちろん、複数の教員が一人ひとりの児童を多角的に見ることで、きめ細かな指導を実現しようというわけである。一方、その中で、長年にわたり課題となっていたのが教育のICT化だった。
なぜ、日本では教育のICT化が進まなかったのか
「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、『教育のオンライン化を進めていれば……』というお声を多くの保護者の皆さんからいただきました。かねて私も“1人1台学習端末”を実現する教育のICT化について導入を強く提言してきましたが、学校というのは結果の平等を求める傾向があります。
たとえ7割がICT化に賛成でも、3割ができないと言えば不平等という観点からやめてしまうのです。またこれまでは、オンライン教育によって子どもたちがどれだけ成長したのかや、ほかの授業との実証比較が難しい点、さらに、教えることのできる先生が少ないという理由からなかなか進まなかった。
ただ今は、社会の情勢が変化してきたことや、ICT化に対する理解も浸透し、機会の平等を重視した教育に変えていかなければならないという機運が高まっています」
電子黒板や1人に1台の端末が整備されると、先生は子ども一人ひとりの反応を瞬時に把握でき、双方向の授業がやりやすくなるという。また時間的に余裕もできることから、フェース・トゥ・フェースの指導をしっかりと行うことができるといわれている。
昨年6月、遠藤氏が会長を務める前述の教育ICT議連で取りまとめた学校教育の情報化の推進に関する法律が成立したことを受け、12月には、ついに1人に1台の端末を整備する「GIGAスクール構想」が補正予算案に計上された。今後、こうした教育のICT化に向けた動きが、全国で加速していくことになる。
(注記のない写真はiStock)