JR東労組、組合員2.8万人「大量脱退」の衝撃 民営化から30年、大きな転機を迎えている

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おカネの問題だけではない。休日にもかかわらず勉強会だ、デモだと駆り出され、参加しないと批判される。開かれる大会もJR総連のスローガンが色濃く反映されることがある。「憲法改悪反対」「安保法制廃止」「仲間とたたかい抜いた国鉄改革を再検証し・・」。確かに平和主義は大切なことだが、一部の組合員からは「これって労組?」と疑問の声も聞かれた。

平成29年版「治安の回顧と展望」(警察庁警備局)では、「革マル派が相当浸透しているとみられる」として、JR総連と労組は警察庁・公安調査庁の監視対象となっている。

会社との対立が表面化していた今年2月23日には、参議院議員の質問に対して、政府が答弁書を閣議決定。「労組内には、影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透していると認識している」とした。

妥結後も組合員の脱退が止まらない

結局、スト権は行使されなかった。会社側は3月16日に、基本給に0.25%を乗じた額という定率ベアを回答(ほか初任給の引き上げなども実施)。一律定額ベアではなかったものの、労組側は「大きな成果を勝ち取る」「基準内賃金平均1328円の改善」と評価、即日妥結した。

2月26日に通告された「労使共同宣言」の失効。これ1枚で約30年にわたる労使協調が終わりを告げた(編集部撮影)

「労組側の主張はこの間、微妙に変わっていった」と会社側は振り返る。ただ、労組側には「大きな成果」と言わざるをえない事情があったのかもしれない。組合員の大量脱退は、労組側に大きな衝撃を与えたようだ。

止まらない組合員の脱退に対して労組は3月9日、会社側から組合員に対して脱退を働きかける不当な行為があったとして、各都県の労働委員会に不当労働行為からの救済を申し立てている(東京、八王子、水戸の各労組地方本部)。

この申立書は、経営幹部が職場訪問を始めた直後から脱退者が出たと指摘。非協力ストは通常業務に影響を与えるようなものではないのに、あたかも列車運行に支障を来すかのような虚偽の喧伝をした、勤務時間内に個別に面談し、脅しと利益誘導で脱退を強要したなどとも申告している。会社側は「こうした事実はない」と否定している。

職場では組合員の不安・動揺が広がっており、ベア妥結後も「組合員の脱退は同じペースで続いている」(会社側)。

4月12日、労組は35回目となる臨時大会を開催する予定だ。一方、会社側は、4月末に36協定(時間外・休日労働に関する協定届)が期限を迎える。そのため、事業所ごとの人数の把握とその代表者の確認など、運行に支障が起こらないよう対応に追われている。大量脱退の余波はまだ続きそうだ。

木村 秀哉 東洋経済 記者

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きむら ひでや / Hideya Kimura

『週刊東洋経済』副編集長、『山一証券破綻臨時増刊号』編集長、『月刊金融ビジネス』編集長、『業界地図』編集長、『生保・損保特集号』編集長。『週刊東洋経済』編集委員などを経て、現在、企業情報部編集委員

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