《若手記者・スタンフォード留学記 5》急増する韓国人学生に感じる“たくましさ”と“わびしさ”
以前、韓国在住の長い日本人の方が「韓国では、みんなが医者か弁護士を目指して、過酷な競争をしている。本当に疲れる」と嘆いていたのを思い出します。もちろん、日本でも医者、弁護士は人気ですが、製造業、金融業、サービス業とあらゆる業界で、魅力的な仕事があります。さまざまな業界で世界的な企業があって、仕事の選択肢が豊富なのは、アメリカ以外では、日本とドイツなど一部先進国に限られるでしょう。
競争は確かに重要ですが、競争で争うべき分野が限られると、社会は多様性を増すよりも、画一性を増すことになる。そして、日本以上に激しい受験戦争、学歴競争が、その傾向に拍車をかけてしまう。韓国における、「教育への熱心さ」、「外へ飛び出す勇気」には学ぶところ大ですが、韓国人の学生は、「国内の狭い競争に疲れ切って、逃走してきた」かのように感じられることも確かです。
世界で一番働くのは、韓国人
以前、理系の韓国人の学生に「スタンフォードで博士号を取れば、アメリカに残らなくても、サムスンでもLGでもどこでも雇ってもらえるだろう」と聞いたことがあります。それに対する彼の答えは「あんなに朝から晩まで長時間働かされるのはごめんだ」。
もちろん、会社や部署にもよるのでしょうが、韓国も日本並みに労働時間が長いことで有名です。OECDの2005年の調査によると、韓国の労働時間はOECD諸国でトップ。OECD諸国平均の週38時間(休日を除く)に対し、韓国人の平均は45時間です(ちなみに、日本は34時間ですが、サービス残業があるので、もっと長いはず)。
しかも、サムスンに勤めたとしても、仕事が技術者にとってスリリングとは限りません。なぜなら、サムスンの花形は、マーケティングやデザインであって、技術者は主役ではないからです。ならば、技術者天国である、シリコンバレーで働きたいと考えるのは、もっともなことです。
つまるところ、現在の留学ブームは、“韓国人”の国際競争力アップにはつながっても、国としての“韓国”の底上げにはつながらないかもしれません。むしろ、国の秀英たちがアメリカに流れるという意味では、国家にとってマイナスかもしれません。中長期的に見ると、彼らは祖国の産業発展のキーマンになるのかもしれませんし、世界をまたにかける華僑のような存在になるのかもしれませんし、あるいは、アメリカ国民となり祖国には帰らないのかもしれません。
翻って、日本では、これまで築いた富と、国内市場の大きさゆえに、若者流出が大きな流れとなっていません。われわれは、日本をこれだけ大きい経済に育て上げた先人に感謝するとともに、日本経済の競争力をアップさせて、国内に魅力的な仕事を残さなければなりません。さもないと、野球界のように、日本のベスト&ブライテストが次々海外に流出することになりかねません。
国内に魅力的な仕事が消え、海外に出て行かざるを得なくなる前に、自分から海外に打って出て、日本経済・日本企業の競争力向上に資する--そうした勇気も、今の日本人に求められているのではないでしょうか。
佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。
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