教育研究者が懸念「アメリカの失敗を後追いする日本」、"公教育"どうあるべき? 教育省廃止に脱DEI…トランプ政権の影響は?

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教員ランキングという格付けが、ロサンゼルス・タイムズやニューヨーク・タイムズなどの主要紙で始まった影響も大きい。テストの点数をいかに上げるかが教員の指導力の指標となり、「何を教えるのか、どのように学ぶのかというカリキュラムの基準も学習到達度の基準にすり替わってしまった」と鈴木氏は話す。

「そうなると、貧困地域の成績がふるわない子どもを教えることが教員にとってリスクになります。本来なら教育的ニーズの高い子どもを任されるのは力量がある証しですが、そのような子どもが多いほど自分の給料が下がったり廃校になって働く場を失ったりするリスクは上がるため、ベテラン教員ほど郊外の裕福な地域に逃げるようになったのです。その結果、貧困地域では、踏みとどまって頑張ったものの教員ランキングの低下を受け自死を選ぶベテラン先生が出てくるほか、非正規免許しか持たない経験の浅い教員ばかりになってしまいました」

「学習スタンダード」が拡大、教員の労働環境格差も顕著に

教育的ニーズの高い地域の学校ほど、学校側は廃校や解雇を回避しようと、子どもたちの学力を上げるため、テスト対策に必死になる。政府と教育産業の癒着も相まってテスト至上主義は加速し、テストの数も雪だるま式に増えていったという。

「私はアメリカ在住時、ニューヨークの貧困地域であるハーレムの公立小学校に2人の子どもを通わせていたのでその様子を目の当たりにしましたが、テスト重視で部活動や課外活動も縮小の一途でした。一方、裕福な地域ではテスト至上主義とは無縁の充実した全人教育を行っていました。両親も教養があり、家庭での学習サポートが十分できるため子どもたちの成績はいい。つまり、テスト対策をする必要がないから、感性や批判的思考力、リーダーシップを養って文武両道を目指すような教育や課外活動ができるのです。このように教育は二極化してしまいました」

新自由主義の影響によって、「教育が商品になってしまった」と鈴木氏は嘆く。

「教育はお金を出せば買うことのできる商品に、学校と教員は教育という商品のサービス提供者に、子どもと保護者は消費者になってしまいました。教育委員会はお客様(消費者)のクレーム受付係です。結果として、アメリカの公立校はサービスに徹し、授業と生徒指導のマニュアル化によってクレームのリスクを減らすという対応が広がりました」

マニュアル化とは、いわゆる「学習スタンダード」や「ゼロトレランス」と呼ばれるものだ。例えば挙手の角度やうなずき方なども細かくルール化されており、それが守れない子どもたちは、停学や退学を余儀なくされることになった。

※秩序の乱れが起きないよう、学校規律の逸脱を許さない厳格な生徒指導方針

「些細な規律も守れないと教育を受ける権利がはく奪されるため、子どもたちはいつ自分がそうなるかと恐れながら学校に通うようになりました。貧困地域の公立学校は、ファストフード店のように学校を増やす『マックチャーター』と呼ばれる公設民営学校チェーンにどんどん置き換わりましたが、とくにそうしたチェーンは効率化を図るため、学習スタンダードやゼロトレランスを採用しています。裕福な地域では教員もゆとりと裁量のある豊かな教育ができる一方、貧困地域ではマニュアル化で裁量もなくテスト対策で多忙化するという、教員の労働環境の格差も顕著になっていきました」

トランプ政権でどうなるアメリカ、日本が目指すべき教育は?

日本の公教育も、そんなアメリカの失敗を後追いし、危機的状況に陥っていると鈴木氏は指摘する。

「2007年から43年ぶりに『全国学力・学習状況調査』が復活しましたが、本来なら抽出式でいいはずなのに、全小中学校を対象とした悉皆調査(全数調査)が採用されました。その後、自治体別、学校別の成績も開示できるようになりました。結果、日本でも東京や大阪の都市部を中心に市場型の学校選択制が拡大しました。各公立校が生き残りを懸けて生徒を奪い合う市場的な状況が生まれてしまったのです。現行の学習指導要領でも、『何ができるようになるか』という学習到達度が重視されるようになったほか、テスト対策に明け暮れるような学校の『塾化』も進んでいて、日本もアメリカと似たような状況になっていると思います」

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