当然、「収奪的」な社会制度を(自覚しつつも)採用している国家からは激しく批判された。研究者からも、データの信頼性や、異なる分析手法を用いた場合の頑健性(結果が変わらないこと)についてなど、1つの研究に対してとは思えないほどバラエティーに富んだ批判を受けた。
それでも丹念に応答を続け、主張の蓋然性が高まっていく様子に、「絶対の真実」が存在しえない社会科学の真髄を見た研究者は、筆者も含め多いのではないだろうか。
毎月のように新作論文を発表
受賞者の1人であるアジェムオール教授は、過去10年間で論文を引用された回数(これは研究の影響力を示す指標の1つだ)が最も多く、学界で非常に尊敬されている経済学者である。毎月のように新作論文を発表し、筆者がこの原稿を書き始めてからこの段落に至るまでにも、被引用数が100増えた。
研究者として優れているのは皆が認めるところだが、彼はとても優しく、困ったときにはいつでも頼ろうと思える(そして大抵の場合は頼る前に助けてくれる)、人間としてもすばらしい師匠である。
最近は、AI(人工知能)とその規制に関して論陣を張り、積極的に発言している。言いたいことや思っていることをSNSで発信するだけでも耳目を集めるだろうが、彼は決して研究をやめない。
現役で研究の最前線に立ち続けるのは大変だ。彼でさえ、「この研究はまったく意味がない」と投稿論文を研究雑誌の編集者や査読者に突き返されることがあるという。
畏れを知らない筆者は、師のフレンドリーさにかこつけて、一度、「それでもなぜ、雑誌に研究を投稿し続けるのですか?」と尋ねたことがある。彼は、「厳しい批判が聞きたいからだよ。そうじゃないといい研究にはならないよね」と笑顔で答えてくれた。……と書いているうちに、また引用数が2本増えた。
※本稿の参考文献等は、https://www.nobelprize.org/uploads/2024/10/advanced-economicsciencesprize2024.pdf をご参照ください。
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