「人が怖い」社交不安症は心の病気、思春期に発症傾向あり必要な教室対応は? 人前での赤面に手の震え、過剰な不安に苦しむ
原因は明らかになっていないが、遺伝的な要素や環境が作用すると考えられている。わが国の治療ガイドラインでは、認知行動療法(※1)、あるいは、薬物療法が提案されている。
※1 考えと行動のパターンを見直すことにより不安感情をコントロールすることを目指す心理療法
社交不安症の患者のうち約60%がうつ病やアルコール依存症など他の精神疾患を合併するとの報告もあり、当事者にとっては切実な問題だ。しかし、社交を恐れるという特性により、当然ながら医師やカウンセラーとの面談にも抵抗感があるため、また、性格だから仕方がないという誤解があるため、受診や相談につながらないケースも多いという。
また、社交不安症の発症時期は10代半ばの思春期が多い。そのため症状があっても、親を心配させるのも嫌だからと黙って何も相談しない状態を「思春期の反抗期によるもの」と誤解されてしまうこともある。こうした事情から、社交不安症という病気を抱えていることに気づかないまま、大人になってからも生きづらさを抱え続ける人は少なくない。
心理的安全性の維持で、社交不安症の生徒の心を守る
早ければ小学生で、多くは中学生から高校生のタイミングで発症する社交不安症。「思春期に社交不安症を発症すると、人間関係につらさを感じ、苦痛に耐えながら学校生活を送ることになります」と清水氏は指摘する。
「従来から指摘されていましたが、千葉大学子どものこころの発達教育研究センターで実施した不安の程度のアンケート調査でも、10人に1人の割合で基準を超えるレベルの不安が強いお子さんがいることがわかります。つまり、30人から40人のクラスに、3~4人程度は、不安症が疑われます」
社交不安症の子どもは、失敗のない完璧な人間関係を求める傾向があり、学校生活のあらゆる対人場面で多大なエネルギーを使う。また、自分の不安な感情を悟られないように隠そうとするため、発見もしづらいという。

では、社交不安症の生徒、あるいは社交不安症が疑われる生徒がいた場合、教員はどのようなことに注意すればよいのだろうか。清水氏によると、まずは「子どものストレスチェック」で子どもの内面の把握に努める意識が重要だという。
「大人の場合、法律で義務付けられたため、50人以上の労働者を使用する職場では、ストレスチェックとして、Webアンケートなどを実施しています。一方、学校は楽しい場所であるという固定観念が強いためか、子どものストレスを計測する発想がこれまでありませんでした。学校現場の皆さんにはメンタルヘルスリテラシーを高めていただき、子どものストレスチェックをきっかけに生徒の不安やうつに気づいてほしいです。また、社交不安症の傾向が強く認められる場合は、しかるべき医療やカウンセリングにつなげることを意識してください」
また、心理的安全性が保たれているクラスかどうかも大切だ。対人関係が得意ではない、あるいはストレスチェックで不安感が強いと認められる生徒を見つけた場合は、「人前で不安になるのは全然変なことじゃない」と伝えてほしいと清水氏は次のように続ける。
「1枚の薄い紙を手のひらに乗せてしばらく経つと、どうしても紙は震えます。もし文字を書く手が震えてしまう生徒がいれば、その様子を見せて『誰でも震えるものだよ』と声をかけてあげるのもよいでしょう。また、発表するときに声が震えてしまう生徒にも、『全然おかしなことじゃないよ』と伝え、からかう生徒がいたらしっかり注意するといった態度が重要です」