世帯年収による差が2.6倍、学力格差にもつながる「子どもの体験格差」とは 支援を「ぜいたく」だと感じる人に足りないもの

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「私たちが調査結果を出すまで、『体験格差』という言葉自体、ネット上でも目にすることは多くありませんでした。体験とは衣食住とも学習とも異なり、いわば生活の一部に近いものです。社会的な位置づけも非常にグレーだし、意識的に子どもに体験活動をさせているように見える保護者も、実はその意義に対してはかなり無意識だといえます」

同氏の団体では、学校外教育格差是正のため、経済的困難を抱える子どもに学習塾やスポーツ、文化活動等で利用できる「スタディクーポン」を提供するなど(関連記事)しているが、こうした活動にも「ぜいたくだ」という声が寄せられることがあるという。

「例えば英国では、子どもにとっての必需品は何かという調査に対し、7割以上の人が『水泳(1カ月に1回)』などを挙げています(※)。しかし日本ではそうはいきませんよね。『健康で文化的な最低限度の生活』はどんなものなのか、国民的な合意がない状態です。何が必要なのか、まずは議論が必要な段階だと思います」

今井氏はさらに、一人ひとりができることとして、「自分以外の人のことを想像してみてほしい」と語る。子どもが学校と家庭以外のコミュニティーを持たないことの問題を指摘したが、それは大人にも起こっていることだ。仕事と家庭以外のコミュニティーを持たず、余暇の余裕もない。今井氏は「自分と自分の子どもにしか興味がない人が多い」と感じている。体験活動の目的は「子どもが夢中になれる時間、好きだと感じられる時間を過ごすこと」だ。だが余裕のない社会で、そうした時間を過ごせている人は大人でも多くないだろう。

「子どもへの支援がぜいたくだと感じる人は、自身も経験によって形づくられているということを意識していないのだと思います。昔に戻せというわけではありませんが、例えば過去には子どもが自営業の家の手伝いをしたり、友達の家族など地域の大人とコミュニケーションを取ったりしていましたよね。そうしたことも体験活動の1つだったのです」

子どもの多様な体験は、決して施設や団体ありきで増やす必要はない。授業や友達との関わりの中で、楽器やスポーツ、芸術に興味を持つ機会も多く、子どもにきっかけを与えるという点で学校ができていることも多い。だが今井氏は、学校の重要性を認識しつつ、「学校もフィールドの1つにすぎない」と言う。

「日本はどうしても学校に多くを負わせたり、あるいは特別な施設や施策を用意したりということに走りがちです。でも活用できる人材やリソースは地域によって異なるし、政治が一律に何かを押し付けてもうまくいかないでしょう。大切なのは子どもが何をしたいか、その願いをどう保証するかということです」

※阿部 彩『子どもの貧困』(岩波新書)
P.187 日本「少なくとも一つくらいのお稽古ごとに通う」13.4%、「1年に1回くらい遊園地や動物園に行く」35.6%、「数年に1回は一泊以上の家族旅行に行く(海・山など)」20.7%
P.190 イギリス「水泳(1カ月に1回)」78%、「趣味やレジャー活動」90%、「1週間以上の旅行(1年に1回)」71%

(文:鈴木絢子、注記のない写真:AK / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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