世論が「大胆な金融緩和」を求める中で生まれた政府・日銀の共同声明。日銀の苦渋の選択の結果であるこの文書を、10年後の今どう位置づけるべきか。前日銀総裁による特別寄稿(全4回)の第3回。

「共同声明」を公表した2013年当時、政府も世論も2%物価目標を絶対視していた(写真:時事)
「共同声明」から10年が経過したが、この間の動きや現在の議論をどのように評価すればよいだろうか。まず、起きたのは実験的ともいえる金融緩和政策が大規模に行われたことである。物価面では、マネタリーベースは飛躍的に拡大したが、消費者物価上昇率は最初の1年間を除きほとんど反応せず、最近のグローバルインフレ勃発まで、2%物価目標が達成されることはなかった。
その結果、「デフレは貨幣的現象」という議論を聞くことはもはやなくなったし、物価さえ上がれば成長率は上がるという議論を聞くこともなくなった。同時に、そうした議論が世の中を席巻した事実も忘れられつつある。中央銀行にとって「時代の空気」への対処の難しさは今後も変わらないことを示唆しているように思える。以下ではこの10年間をより詳しく振り返ってみたい。
❶ 物価目標の未達
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