精神科医・本田秀夫が語る「発達障害の子の不登校」、課題と解決に必要な視点 通常学級の「インクルーシブ教育」浸透が急務
LDの子が情報端末の音声読み上げ機能の利用を希望したら、発達障害の診断書の提出を求められたうえに、教育委員会で2カ月も議論されたというケースもあります。しかし本来、視力低下でメガネをかけるために先生や教育委員会にお伺いを立てないのと同様、読み上げ機能の利用も法的に診断書は不要です。ハラスメントのような対応は改善していただきたいです。
そして、特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室(以下、通級)などの特別な場で個別の教育を提供していくことも必要なわけですが、子どもたちが自由にユニバーサルデザイン・合理的配慮・特別な場の3つのステージを選んで行き来できるようにすることが大切です。実際、フレキシブルに対応している学校現場はあります。
学校に行くと楽しく学べると思える工夫は、学校側がすべきです。今は学校に行きたくないと思ったら、休むしかない。環境を変えられるチャンスは高校受験までありません。選択肢がないのです。授業や先生、クラスが合わないと感じたら柔軟に変えられる仕組みがあるとよいと思います。
教員は重要な存在、日頃から心がけるべき2つのこととは?
──発達障害の子の登校しぶりや不登校を防ぐため、通常学級の教員が心がけるべきことは何でしょうか。
2つあります。1点目は、先生から見て問題がないからOKだと、絶対に思わないこと。私たちがよく診るのは、それまで問題がないと思われていて、ある日突然学校に行けなくなるケースです。その子たちに話を聞くと、「本当は嫌だったけど我慢して学校に通っていた」と言うんです。
我慢は美徳だとか、我慢を覚えさせたいとかおっしゃる先生もいますが、それは心理的虐待です。さらに言えば、子どもたちが楽しいと思える授業を工夫できない教員の怠慢です。子どもたち一人ひとりが楽しんでいるか、つねにモニタリングしながら授業をしていただきたいです。
2点目は、特別な教育の場を尊重してほしいということです。発達障害の子は、通常学級においてつねに少数派。先生がどんなに配慮しても、集団では多数派に合わせた調整が生じるものなので、「みんながやっているから、あなたも我慢してね」と強制される場面が出てきてしまう。少数派の子が楽しめるカリキュラムが保障されず、不公平なのです。

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。91年から横浜市総合リハビリテーションセンターで約20年にわたって発達障害の人たちと家族の支援に従事。2009年4月から10年8月まで横浜市西部地域療育センター長を兼務。11年4月、山梨県立こころの発達総合支援センター開設に伴い、同所長に就任。14年4月より信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長、18年4月より現職。日本自閉症スペクトラム学会会長。日本児童青年精神医学会理事。日本精神科診断学会理事。日本発達障害学会評議員。日本自閉症協会理事。特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。『学校の中の発達障害』(SBクリエイティブ)など、著書多数
(写真:本人提供)