教育現場の「叱る依存」、解決に必要なのは「権力勾配を緩やかにする仕組み」 村中直人「カギは『ニューロダイバーシティ』」
なので、教育現場においても、ニューロダイバーシティを持ち込むことと、「叱る依存」の問題解決は表裏一体だと思っています。
──教員には具体的にどのようなことが求められますか。
教育現場で「叱る依存」の沼にはまっている人は多いですが、これは個人の資質の問題ではなくシステムの問題です。現在、圧を持って子どもをコントロールできると「指導力がある」と高く評価される教育現場が多くあります。叱ることが指導の大前提になっており、“叱る依存教員”を大量発生させるシステムになっているのです。
教員の方々には、まずはこのシステムを変える側に立ってほしいと思います。工藤勇一先生(現横浜創英中学・高等学校校長)による麹町中学校の改革例など、公教育の好事例を見ると現場からボトムアップで変えられることは多いので、個人ではなく学校の仕組みに着目するのがよいでしょう。
とくに好事例といわれる学校には共通して、「教員と子どもの権力格差」を是正する仕組みがあります。例えば、まず「複数担任制」に着手する学校は非常に多いですね。1人の教員による従来の担任制では、子どもたちはその教員から逃れることができず権力格差が生まれます。しかし、複数担任制では子どもたちは教員を選べる、つまり子どもたちの権利が増えるわけです。すると圧の強い教員は人気がなくなって、教員に対する評価の軸も変わりますし、子どもたちが自主的に動く余地が生まれます。このように権力勾配を緩やかにする仕組みがあると結果的に、「叱る」も減っていきます。
また、「内申点も含めて評価される試験」と「内申点を含めない一発勝負の試験」のどちらがよいか、受験スタイルを子どもたちが自分で選べる仕組みにするだけで教育現場はガラッと変わると思います。すでに一部の自治体は、公立高校の入学者選抜で不登校生徒の救済策として実施していますが、生徒を限定せずに全員が選べるようにするべきです。
内申点は以前から問題視されています。議論が進まないのは、指導に従わない生徒に「内申書に影響するぞ」と罰を与えて圧でコントロールしたい現場が多いから。個人的には「内申点全廃派」ですが、せめて選択制へと見直すべきです。これは生徒の権利を拡大し、権力勾配を緩やかにすることにつながるはずです。
学校現場に「ラーニングダイバーシティ」を
──学びに関して「ここを変えるとよい」と思うことはありますか。
公教育の「ラーニングダイバーシティ」が大事だと思います。ニューロダイバーシティというと特別支援教育の話になってしまいがちですが、定型発達といわれる多数派の子どもでも、学び方の特性は実に多様です。しかし現状は、そうした多様さはないものとされ、教え方も問題の解き方も1つに限定されがちです。
例えば、算数のさくらんぼ計算や掛け算の順序問題がよく話題になりますが、答えが合っていても先生が教えた解法でないと不正解にする学校現場は少なくありません。学び方の方法まで管理するのは圧によるコントロールと同じです。
──文部科学省が推進する「個別最適な学び」とは逆行していますよね。
はい。経済産業省も「学びの自律化・個別最適化」を掲げ、内閣府も「Society 5.0の実現に向けた 教育・人材育成に関する政策パッケージ」で「認知の特性」に応じた学びに触れていますが、解法まで管理する学校教育の現場は真逆の流れになっています。