働き方改革で注目の元教頭、いかに根強い「教員の固定観念」変えたのか 中村浩二校長「教員が探究的に働ける仕組みへ」
学校の子どもたちのためとはいえ帰宅が遅くなり、自身の家庭を顧みず学ぶ時間も確保できない生活は豊かな人生につながるのか。家族のウェルビーイングまで保障しようとする企業がある中、ブラックな職場環境のままでは教員を目指す若者はさらに減り続けるのではないか。働きやすい職場づくりが持続可能な学校をつくり、ひいては子どもたちに豊かな学びを提供できるのではないか――中村氏はさまざまな切り口で「一緒に考えませんか」と語りかけ、教員の心の痛みに寄り添うことを大事にしながら意識改革に取り組んだという。
「野球型からサッカー型の働き方に変えていこう」
名古屋市立東築地小学校での事例を見ていこう。中村氏が教頭として赴任してきた当初、2017年度4月の勤務時間外在校時間は職員28人中、月80時間を超える者が32%、1人1日当たりの勤務時間外在校時間は平均で3.38時間に上った。しかも5月はさらに数字が悪化。
深刻な長時間労働の実態を目の当たりにした中村氏は、業務の選択と集中を通して勤務時間内に余白を生み出し、「健康的に働けるようにすること」そして「教員が自ら学ぶ時間を確保して、子どもたちに豊かな学びを提供していくこと」の二本柱を徹底しようと決意した。
ほぼ時間無制限で延長戦を繰り広げる「野球型の働き方」から、決められた時間内で勝敗を決する「サッカー型の働き方」に変えていこうと呼びかけ、手始めに、自ら定時で退校する日を申告して実行する「個人定時退校日」を取り入れ、みんなで理想の働き方を考える校内学習会を実施した。
その結果、17年度12月には月80時間以上の勤務時間外在校者がゼロになり、3学期もこれが継続。2月には1人1日当たりの残業時間が1.96時間と2時間を切るなど、大幅な改善が見られた。
18年度はさらに、日課表を見直して児童の下校時刻を20分繰り上げるほか、通知表の書式・記載内容の変更、電話・来校者応対の時間設定、部活動の指導時間の制限など、さまざまな業務改革を行った。下校時刻の変更や部活動の縮小は、家庭や地域の理解も必要であるため、PTAや学区連絡協議会など関係者それぞれに対して丁寧な説明をする機会を設け、理解と協力を求めたという。
その結果、多忙な1学期からも状況が改善していき、2学期には月80時間以上の勤務時間外在校者はゼロ、文科省によるガイドラインの月45時間という勤務時間の上限規制もクリアした。
そんな中、中村氏は19年度から名古屋市立矢田小学校へ転任することになった。同校は同市の「個別最適化された学びを提供する授業改善の推進」事業のモデル実践校に選ばれており、注目される立場にあった。
「GIGAスクール構想元年に先駆けて、1人1台のタブレット端末を効果的に活用した個別最適な学びや協働的な学びの手法、授業改善の成果を発信しなければなりませんでした。しかし、いくら立派な実践モデルを示したとしても、『あんな教員の自己犠牲による無理な働き方はまねできない』と言われてしまっては、せっかくの実践モデルが広まりません。ですので、並行して働き方改革を進めなければならないと考えました」
そこで、前任校での取り組みに加え、「学年だより」を「学校だより」に一本化。毎朝10〜15分かけて行う教員の朝の打ち合わせ用に「連絡メモ」も導入し、連絡メモを読んでわかる内容については口頭説明を省き、共通理解が必要なものについてのみ打ち合わせで確認するようにした。
「その結果、週5回の打ち合わせが3回に減って所要時間も5分程度に短縮でき、教員は余裕を持って教室に向かえるようになりました。毎月の職員会議も、教務主任と相談して議題に応じて日程をずらし、1.5〜2カ月に1度のペースに変えました」
さらに、モデル事業で配布されたタブレット端末を生かして、校務の効率化も図った。職員室のホワイトボードで行っていた特別教室の予約をアプリで管理できるようにし、保護者や子どもたちへのアンケートも紙からウェブ経由に変更して集計時間の大幅削減につなげた。打ち合わせの際も適宜動画ファイルを転送するなど共有時間を短縮した。