大空小の初代校長・木村泰子、予測不能な社会生きる子どもに必要な「4つの力」 学力や他者評価で測る限り「本当の幸せ」はない

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2015年に公開された映画『みんなの学校』は、06年に開校した大阪市立大空小学校の1年間を撮影したドキュメンタリー作品だ。大空小では「不登校ゼロ」を目指し、特別支援教育の対象となる子どももそうでない子どもも、共に学び合う教育体制を敷いてきた。その大空小で初代校長を務めた木村泰子氏は、当時の経験から得たものを、教員を引退した現在も講演や執筆活動で精力的に発信し続けている。今、子どもたちに必要なのはどんな教育か。その教育を提供する学校のあり方とはどのようなものか。未来を生き抜く子どもを育てる学びについて、木村氏に聞いた。

いい学校へ行けばいい人生が送れると考える親は古い

2006年に大阪市立大空小学校の初代校長となった木村泰子氏は、就任直後から、子どもたちが生きる未来の社会はどんなものになるかを考えてきた。その社会ではどんな力があれば幸せに生き抜くことができるのか、その実現のためにどんな教育が求められるのか。新設されたばかりの小学校の教育理念を定めるため、この逆算の思考は欠かせないプロセスだった。共に働く教員たちとの話し合いの中で挙がったのが、「多様性・共生・想定外」というキーワードだ。以来、木村氏はこの3つを念頭に子どもたちと向き合ってきた。

月日は流れ、22年4月。当時からはさらに想像もできないほど、世界はこれらのキーワードが実感される状況を迎えている。

「私はつねに、10年後、20年後、子どもたちが生きていく社会は予測できないものになると言ってきました。コロナ禍、そして現在進行形のウクライナでの戦争。これらが示しているのはまさに、いつ何があるかわからないということなのです」

予測できないことが起きたとき、自分で考えてクリアする力をつけることが重要だと語る木村氏。どんな社会になるかを予想して対処法を教えるだけの教育は「戦後のニーズに基づく古い考え」だという。

「いい学校に行っていい会社に入ればいい人生が送れるというのは、予測可能な範囲で正解を教える教育の発想です。想定外の未来ではこうしたセオリーは通用しません。最近は受験の低年齢化や過熱化も取り沙汰されていますが、これは今の保護者の中にはまだ、過去の教育を受けてきた古い世代が多くいるからです。私はあと3年から5年で、そのような価値観の保護者が激減すると思いますし、すでにその過渡期にあると考えています。こうしたことに気づいている保護者もすでに大勢いると感じています」

では、想定外の事態をクリアする力はどう伸ばせばいいのか。木村氏は大空小時代、4つの力を軸に子どもたちと向き合ってきた。

1つ目は「人を大切にする力」だ。これは多様性にもつながることで、相手も自分も大切にすることを指す。この力が伸びるかどうか、周囲の大人が与える影響は大きいという。

「もし子どもに『人に迷惑をかけるな』と言って育てれば、迷惑をかける人を許せない人になってしまう。『役に立つ人になれ』と言い続ければ、役に立たない自分では駄目なのだと考えて、自尊心が保てなくなってしまいます。大人でもこうした考えの人が多く、それは現在の生きづらい社会の一因にもなっていると思います」

2つ目の「自分の考えを持つ力」や3つ目の「自分を表現する力」は、新学習指導要領にも盛り込まれた「主体的・対話的で深い学び」にも通じるところがあるだろう。

「旧来の教育では、先生の言うことを素直に聞く子ども、みんなと同じことができる子どもがいい子とされてきました。でもそうした時代はもう終わり、今はみんな違うことに価値がある時代になりました。その子がその子らしく育つこと、自分の言葉で語りたいことを語れることが何より大切です」

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