陸上長距離界に旋風を巻き起こしたナイキの厚底シューズ。一度は完膚なきまでに敗れたアシックスが、そのプライドにかけて頂上奪還を目指す。
「わたしたちは、何度でも起き上がる」。
2022年の元旦、こんな言葉で始まるアシックスの全面広告が全国紙に掲載された。続く文章はこうだ。
「2021年1月、レースから、アシックスのシューズが姿を消した。たとえ何度負けようとも、わたしたちは前を向く」「誰よりも真剣に、走りと向き合う。負けっぱなしで終われるか」
具体的な名前こそ出してはいないが、「2021年1月のレース」とは、全出場選手のほぼ全員がナイキのシューズを履いた箱根駅伝を指す。その年、2017年まで着用率トップだったアシックスを履いた選手は1人もいなかった。自らを鼓舞するような全面広告は、翌日から始まる箱根駅伝を強く意識した「反撃宣言」でもあった。
社長直轄の「頂上奪還」作戦
「やられっぱなしで君たちは悔しくないのか。頂上を取り戻すために社長直轄のプロジェクトを立ち上げる」――。
2年前の2019年12月、神戸にあるアシックス本社の大会議室。商品企画や研究所、マーケティング、知財など関係する各部署から集められた10人の社員たちに向かって、廣田康人社長がげきを飛ばした。
プロジェクトの目的は、長距離ランニングシューズの頂上モデルとなるトップアスリート用で最強のシューズを開発すること。創業者・鬼塚喜八郎がよく口にした「頂上(chojo)から攻めよ」という言葉にちなんで「Cプロジェクト」と名付けた、“頂上奪還”作戦が動き出した瞬間だった。
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