「露骨な介入でメディアが飼い慣らされた」 【メディア】東京新聞記者・望月衣塑子氏に聞く

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東京新聞の望月衣塑子記者は「安倍政権による長期間の抑圧でメディアの立場が弱くなった」と語る(写真は2017年11月、撮影:尾形文繁)

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国会での虚偽答弁や公文書改ざんが明らかになった森友・加計学園問題、招待者リストの破棄まで行われた桜を見る会疑惑など、政権を揺るがすスキャンダルが続出した安倍政権。首相官邸での定例会見で、菅義偉前官房長官を正面から問いただす記者は「異質な存在」として注目を集めた。
他方、大手メディア幹部と首相との会食が繰り返され、政権におもねるようなメディアの姿勢に国民の不信感も高まっている。
安倍政権の7年8カ月を振り返るインタビュー連載。7回目は政権とのバトルを繰り広げてきた、東京新聞社会部の望月衣塑子記者。安倍政権はメディアにどう向き合ったのか。

進んだメディア間の分断

──安倍政権下で、具体的にはどのような圧力がメディアにかけられていたのでしょうか。

2014年の総選挙の前、自民党の萩生田光一筆頭副幹事長(当時)は選挙報道の公平性確保などを求める文書を在京テレビ各局の番記者に手渡した。文書では、出演する候補者の発言回数や時間、街頭インタビューなどの構成を公平・公正・中立にし、一方の意見に偏ることがないよう求めている。具体的な番組の内容にまで踏み込んだ政権与党からの要請に、テレビ局を牽制する狙いがあることは明らかだ。

2016年には高市早苗総務相(当時)が国会で、放送局が政治的な公平性を欠くと判断した場合、放送法4条違反を理由に電波停止を命じる可能性に言及した。

2019年には報道ステーションで放送されたニュースについて、世耕弘成参議院自民党幹事長がツイッター上で「印象操作だ」と抗議すると、報ステ側が翌日の放送でお詫びをする事態となった。

時の政権は批判的な報道を抑え込みたいものだ。しかし、権力を行使できる大臣が公然と電波停止の可能性に言及すれば、現場は萎縮してしまう。これに対してテレビ各局が連帯し、抗議行動につなげなかったこともテレビ局の自粛や萎縮に拍車をかけたように思う。

実際に、テレビ局への権力側の介入は日常的に行われていると感じる。政権に批判的な内容がテレビで報道されると、各局の局長や政治部の記者に対して首相の補佐官や秘書官から電話やメールなどで抗議が届くと聞く。かつてであれば、「こんな抗議が来ました」と笑って流していたような話も、局によってはすぐに反省会を開くこともあるようだ。

──望月さんは官邸会見で菅前官房長官に食いついて質問をする姿が注目を集めました。

記者会見の場でも、質問を制限したり、会社に抗議文が送られたり、記者クラブに抗議文が貼り出されたりした。

安倍政権では、首相会見で質問ができたのは記者クラブ加盟社にほぼ限られていた。フリーランスが当てられることも今年、フリージャーナリストの江川紹子氏が会見の場で「まだあります!」と叫ぶまで、まずなかった。

朝日新聞政治部の南彰記者によると、第2次安倍政権が発足してから2020年5月17日までの首相単独インタビューは、産経新聞(夕刊フジ含む)32回、NHK22回、日本テレビ(読売テレビ含む)11回に対し、朝日新聞はたった3回。安倍前首相が対応に差をつけることで、メディア間の分断が進んだ。

菅前官房長官の会見では、私に対して2問までという質問制限が続けられていた。内閣府の上村秀紀・前官邸報道室長は、私が質問する直前に会見を打ち切るなど不当な扱いを続けた。抗議をすると、菅氏は夜の番記者とのオフレコ懇談を設けないなど、別の方法で圧力をかけるようになり、官邸クラブにいる番記者側が「不規則発言はしないでほしい」と要望をしてきたこともあった。

今回の総裁選は党員投票を見送り、派閥が候補者の論戦前から談合を行っていたと思う。こうした総裁選での手法にも菅氏の性格が凝縮しているように感じた。

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