本誌コラムニスト:野村明弘
Q1 世界経済はどれだけ悪化するのか
A 今回の不況は、早くも欧米では"The Great Lockdown"と呼ばれ始めています。1930年代の世界大恐慌は"The Great Depression"、2008年のリーマンショックに端を発した世界景気の悪化は”The Great Recession”と呼ばれていますが、「グレートロックダウンは大恐慌以来で最悪の不況になる」とIMF(国際通貨基金)は予測しています。
2020年4月時点のIMF予測では、今年の世界GDP(国内総生産)の成長率はマイナス3%となる見通しです。これは、グレートリセッションのあった2009年のマイナス0.1%を大きく上回ります。
ちなみに大恐慌時代の世界GDPは定かではありませんが、アメリカの成長率は1930年がマイナス8.5%、1931年がマイナス6.4%、1932年がマイナス12.9%といった記録が残っています。これに対し、IMF予測では2020年のアメリカの成長率はマイナス5.9%となる見込みです。
グレートロックダウンの特徴は、新型コロナウイルスの世界的な拡大によって、先進国と新興国の双方がマイナス成長に陥ることでしょう。これは、新興国が3%弱のプラス成長を維持した2009年との大きな違いです。
IMFの予測では、2020年の先進国はマイナス6.1%、新興国・開発途上国もマイナス1%となっています。とはいえ、中国は年後半の回復により2020年の成長率はかろうじてプラス1.2%、インドもプラス1.9%などと予測されており、GDP実額の増減で見た場合には米日欧の惨状が一段と目立ちます。
もう1つのポイントは、グレートロックダウンがどこまで長引くかです。先ほどのIMF予測は、2020年後半に感染拡大が終息に向かうという前提であり、2021年の世界GDPはプラス5.8%にV字回復する見込みです。
しかし、2020年いっぱいまで感染拡大が続き、2021年に第2波が襲来するケースでは、2020年マイナス5.8% 2021年マイナス1.5%の予測となっています。新型コロナウイルスの変異のリスクもあり、感染状況の予想は困難ですが、世界景気が一段と悪化するリスクも視野に入れておくべきでしょう。
Q2 金融危機は起こるのか
A 2020年4月に入ってやや落ち着きましたが、マーケットでのパニック売りが続いた3月まで大いに懸念されたのが、世界的な金融危機への波及でした。グレートロックダウンにより企業収益が低下するため、株価が調整するのは当然ですが、ここに「現金が王様」といった形で、債務不履行リスクや群集心理による投げ売りが加わると、金融システム全体の危機につながります。
万一、金融危機が発生すると、グレートロックダウンにリーマンショックが上乗せされることに等しく、もう1つの大きな問題が加わることになります。
金融危機リスクとして特に懸念されるのが、アメリカの企業債務です。FRB(米連邦準備制度委員会)の調べでは、金融機関を除いた米国企業債務は2019年9月段階で15.7兆ドル(約1700兆円)に達し、対GDP比でも過去最高の74%となっています。
シェールガス関連企業などのハイイールド債(いわゆるジャンクボンド)やレバレッジドローン(投資不適格級企業向けローン)、そのレバレッジドローンを証券化したCLO(ローン担保証券)が俎上に載っており、これらを合計すると、2.5兆ドル程度と見られています。
個人投資家の行動も無縁ではありません。これらのジャンク的な企業債務では、その高利回りの魅力を感じた個人や年金基金が、投資信託やETF(上場投資信託)のチャネルを通じて大規模な資金を投入してきました。
投信解約が相次げば、運用会社はハイイールド債などの換金売りを行わねばならず、それが社債価格下落(金利は上昇)を起こし、さらなる投信解約につながるというスパイラル的な暴落になりかねません。したがって、資金調達に窮した企業や金融機関の連鎖的な破綻という形で金融危機が発生する可能性があります。
FRBやECB(欧州中央銀行)、日本銀行など各国中央銀行の矢継ぎ早な資金供給拡大により、4月以降、株価は落ち着きを取り戻しつつあります。
FRBがコロナ危機でジャンクボンドに転落した社債まで購入対象にするなど、中銀は、社債・コマーシャルペーパーなどの購入でそれらの価格の維持・上昇(金利維持・低下)に躍起です。ただ、感染拡大が長期化する中、何かのきっかけで第2の資産価格暴落が起こる可能性は否定できません。今は落ち着いているとはいえ、予断を許さない状況です。
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