日本銀行が2%の物価目標を掲げたのが2013年1月、黒田東彦総裁の下で「量的・質的金融緩和」を開始したのが同年4月だ。すでに丸6年が経過したわけだが、消費者物価指数はほぼ0〜1%の間を行き来するだけだ(前年比、生鮮食品を除く総合指数で消費増税の影響を除く)。
政府はもはやデフレ脱却には関心がないようだ。むしろ賃金が上昇しない中での消費増税への批判が根強いことから、逆に携帯通話料金引き下げや教育の無償化など、安倍晋三首相の支持層である若者に訴求する政策に切り替えている。
日銀も2%の目標達成については昨年7月の政策調整で、事実上の長期戦に切り替えた。しかし、目標そのものを修正しないので、長引く緩和政策の副作用が顕在化しつつある。
財政規律が弛緩しているのは今に始まったことではないが、目先では金融システムへの影響が懸念される。ほかならぬ日銀が4月の「金融システムレポート」で示したのは、運用難にあえぐ地域金融機関の八方ふさがりの状況だ。
とくに、マイナス金利政策の実施された16年度以降は、国債運用を大幅に減らし、外国債券や投資信託に運用を広げたものの、17〜18年度には米国金利の上昇によって外債の損失処理を余儀なくされた。人口減少と中小企業の廃業が続く中で、よりリスクの高い先への融資が拡大している。スルガ銀行の不正融資はガバナンス上の問題としても、日銀の超低金利政策が無縁とはいえないだろう。
病名不明のままの処方箋
日本はすでに人手不足下で完全雇用を実現しているので、需給ギャップはなくなっている。物価上昇率を基準に政策を行うこと自体に大いなる疑問符が付いている。
物価の上がらない要因についてはさまざまな見方がある。
リーマンショック以降は、米国やユーロ圏でもディスインフレ傾向が強まった。そのため、金融システム危機や失業の増大がその後の投資や消費をも冷え込ませる「履歴効果」が注目された。あるいは危機の前から、構造変化によって貯蓄と投資をバランスさせる均衡金利はマイナス圏に低下しており、住宅バブルを起こすことで、潜在成長率の低下を覆い隠していただけだという指摘もある。ローレンス・サマーズの長期停滞論の考え方だ。
労働分配率の低下により、賃金主導による物価上昇も起きにくくなった。そこで、新興国の安い労働力との競争を余儀なくされるグローバリゼーションへ批判が出た。株主への配当や経営者への報酬が高すぎるという主張もなされた。
インターネット普及の影響として、店舗を持たない電子商取引との競争で安値販売を強いられる「アマゾン効果」がある。
近年注目されるのは、情報の複製・拡散のコストがほぼゼロのため無料のサービスが増えて、消費者の効用は高まっているが、価格やGDP(国内総生産)には反映されていないという問題だ。
その影響は大きく先述の長期停滞論は妥当でないと主張するのが、AI(人工知能)と人間との競争をテーマにした分析で知られるエリック・ブリニョルフソンらだ。
また、日米、日欧など異なる国・地域の物価には経済構造の違いが反映されるので、個別の品目の動向も重要な分析対象になる。
問題となるのは、つまり、物価がマクロ経済運営の物差しとしてどの程度有効なのか、物価の上がらない原因は何なのかといった分析が不十分なままに、漫然と2%の物価目標を掲げて、副作用を拡大させていることだ。






















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