米国で「現代貨幣理論(MMT)」という経済学説が脚光を浴びている。米民主党左派の新星と騒がれるオカシオコルテス下院議員が財政拡張の一環として支持を表明、日本でも積極財政派の国会議員や有識者が好意的に取り上げ始めた。
MMTに対しては、すでに米国の主流派経済学者がこぞって痛烈に批判しているが、実はMMT提唱者の身内であるポストケインズ学派(左派の異端派経済学者)からも強い批判の声が上がっていることはあまり知られていない。
MMTの主な主張は①「政府は完全雇用達成を優先課題として積極的な財政政策を行え」、②「その際、自国通貨を発行する国は税金を徴収する必要がなく、また国債で市場から借金する必要もない。中央銀行がつねに超低金利を維持しつつ、国債を購入すればよい。ただし、過度なインフレを招きそうなときは、増税や歳出削減で調節する」というものだ。
主流派経済学者は①②とも批判する。彼らは、リーマンショックのような不況時には財政政策は有効だが、平時には財政政策は無効と考える。財政規律を重視して雇用政策などの財政支出を抑制・削減する一方、政府から独立した中央銀行による金融政策によって物価や景気は制御できると考える。
これに対し、ポストケインズ学派は①に賛成し②を否定する。主流派は「将来は予測可能」という前提の下に市場の自動的な調和を重視するが、将来の不確実性を前提とするポストケインズ学派は政府の介入を不可欠と考える。なぜなら、将来不安を抱える人々は過剰に貯蓄するため恒常的に需要不足が生じるからだ。総需要管理のためには積極的な財政政策が必要と、MMTと同様に考える。
MMTは流動性を無視
問題は②である。市場の自動的な調和を過信するのが主流派の癖とすれば、MMTは政府の力を過信している。具体的には、政府が増税や歳出削減によって経済から過剰な需要を抜き取れば、過度なインフレは防げると考える点だ。この考え方には、資金が自由に移動する国際金融市場の存在が抜け落ちている。
身内のポストケインズ学派が批判するのもこの点だ。将来の不確実性が支配する中、人々が貯蓄手段に求めるのは流動性だ。流動性では、ほかの財との交換性や価値の安定性が重要な要件となる。通常はMMTが想定するように、自国通貨が流動性の手段として最も選ばれる。だが、大幅な自国通貨安やインフレの懸念が生じれば、人々は価値の安定性が崩れたと判断し、資金を自国通貨から実物資産や他国通貨建て資産などに逃がすだろう。こうした資金逃避に対して、増税や歳出削減といった政府の総需要面からの政策は無力だ。中央銀行は通貨引き締めに転じざるをえず、財政赤字や公的債務の規模は問題にならないというMMTの主張はもろくも崩れ去る。
ポストケインズ学派の牙城である米マサチューセッツ大学アマースト校のジェラルド・エプシュタイン教授は「結局、財政には制約があり、従来われわれが主張してきたように、どの財政政策のメニューを優先するか、議論する必要がある」と指摘する。
また、MMTが実践されれば、低コストのドル大流出によって新興諸国など世界で資産バブル、金融不安定化が起こりかねない。さらには、「財政制約がない」と国民を錯覚させるため、MMTは軍事費拡大や政治家の利益誘導などに悪用されかねないと、ポストケインズ学派は批判する。身内からの指摘だけにその意味は重い。






















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