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米中「文明の衝突」論の危うさ 西欧文明の代表である米国と中華文明との戦い

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米中貿易摩擦がかなり長期にわたって続くという見通しは日本でも定着してきた。それほど米国側の姿勢が強硬なのだが、最近になって「文明の衝突」論が頭をもたげてきたのは危険な兆候だ。「文明の衝突」とは、国際政治学者のサミュエル・ハンチントンが、冷戦後の世界では文明の違いが対立の軸になるとして提唱した理論体系である。米中貿易摩擦は、西欧文明の代表である米国と中華文明との戦いというわけだ。

発端は4月末に米国で開かれたシンポジウムでの、米国務省のキロン・スキナー政策企画局長による発言だ。米中貿易摩擦は「まったく異なる文明間の争い」で、中国は「米国にとって初めての強大な非白人の競争相手」だとした。

スキナー氏は現在、トランプ大統領とポンぺオ国務長官の中国観を政策構想にまとめているという。黒人である彼女に担当させたところに人種差別批判をかわす狙いを見て取るのはうがちすぎか。

中国は当然、猛反発している。国営の中国国際放送(CRI)は「米国人がなかなか言い出せない本音が出た」と批判した。

習近平国家主席も自ら反論した。5月15日に北京で開かれた第1回「アジア文明対話大会」で、習氏は47の国と地域から集まった2000人を前に基調演説を行った。聴衆の多くは広域経済圏構想「一帯一路」に協力する国々から来た人々だ。いつもなら習氏は「ウィンウィン関係」に基づくパートナーシップの呼びかけに終始するのだが、明らかに米国を念頭に「自らの人種と文明を高いものと見なして、その他の文明を改造したり、取って代わったりしようとするのは愚かだし、危険なことだ」と説いたのだ。

中国には好都合かも

しかし、すべてを「文明の違い」で片付けられるなら中国には好都合だろう。米国はじめ西側から中国への注文は、人権や市場経済をめぐる普遍的なルールの存在を根拠としたものだからだ。

中国の国際秩序観をおさらいしておこう。習氏は2013年のロシア訪問時に、「協力とウィンウィンを核心とする新型国際関係」を提唱した。これは国際社会を、経済的利益を通じた2国間関係の束と見なすものだ。一帯一路とは、それを中国の国益に沿って具現化するものにほかならない。多国間のルールで中国が制約されるのは避け、問題は2国間交渉で処理したいという姿勢だ。

経済面では、中国は01年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、グローバル化の最大の受益者といわれてきた。だからこそ、市場経済のスタンダードに合わせることが強く求められている。しかし国有企業が金融やインフラ、エネルギーなどの要所を押さえる独自の経済体制を温存したままだ。人権問題については言うまでもない。

これまで中国は、自国は全体で見れば発展途上国であるという国情を理由に、そうした批判への対応を先延ばしにしてきた。だが、発展段階ではなく「文明の違い」が理由になるなら、中国は改善への努力を止めるだろう。

また、「文明」を対立の理由に持ち出すことは無用の感情的反発を生む。米国では中国人研究者の入国が難しくなっているほか、留学生への監視強化なども伝えられている。近代史に鑑みれば、中国人のナショナリズムを刺激するリスクを軽く見るべきではない。

そもそもハンチントンの提言は8つの文明圏が相互不干渉で共存することだった。世界戦争を招く「文明の衝突」を避ける道を説いたのだが、トランプ氏はそれを見過ごしているのではないか。

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