英国は3月29日にEU(欧州連合)を離脱するはずだったが、10月末まで猶予された。メイ首相の奮闘もむなしく英国下院でEUとの離脱協定案を可決できていない。秩序立った離脱ができるのか、先行きは依然不透明だ。
そもそも離脱の影響や道筋について、事実に基づく議論や説明が不足したまま国民投票で離脱を決めてしまったため、国民も政治家もどう決着させたらよいのかわからなくなってしまったようだ。
思い起こせば、2016年には6月の英国の国民投票と11月の米国の大統領選挙があり、いずれの結果も従来の世論調査とは異なるサプライズとなった。その後の調査や報道によって、英国の離脱キャンペーンの担い手や米国のトランプ陣営の選挙参謀が、SNS(交流サイト)を駆使した情報発信によって浮動票を取り込んだ手法が明らかになった。最も民主的とされる2つの国で、フェイクニュースによる扇動がまかり通っていた。フェイスブックの個人情報流出問題に絡んで情報の不正取得が疑われた選挙コンサルティング会社が両方の案件に関わっていた。
英国に「押し寄せる」とされる難民の数や英国がEUに拠出している分担金をめぐって虚偽の数字が示されていた。米国大統領選挙では、クリントン候補を誹謗中傷するフェイクニュースがSNSを通じて多数拡散された。トランプ大統領就任後は、報道官による虚偽の説明を大統領顧問が「オルタナティブファクト(もう一つの事実)」と強弁して話題となった。
フェイクでなくても操れる
こうした明らかなフェイクニュースの例だけを取れば、それに動かされるのは、リテラシーの低い人たちだけだと思いがちだ。
しかし、近年、ヒトラー以来のおなじみの扇動術がネット上を跋扈(ばっこ)していることに注意が必要だ。
物事の一面だけを強調する、同じ内容の話を繰り返す、あなたは損をしていると訴えかける、敵を名指しするか、明示しなくてもその存在をほのめかす、そして、最後に非常に単純な解決策を提示する──。怒りを呼び覚ますのが最も効果的な扇動方法であり、解決策は単純であるほど人々を引きつける。ポピュリズムも一部重なる。
昨年あたりから「トライバリズム(部族主義)」という言葉が使われ出した。特定の血縁や宗教や生活習慣でまとまり、その集団に忠誠心を持って、異なる集団を敵視する、といったイメージだ。もとは民族間の対立が先鋭化するようなときに使われる言葉だ。
トランプ大統領の米国では、人種や経済的な地位を背景に移民、環境、経済政策に対する意見などを同じくする者が「政治的部族」を形成し、意見の異なる者を敵視し排斥しているというわけだ。事実に基づき議論をして解決策を探る、といった建設的な姿勢は後退している。「部族」内だけで感情に訴えかけ、見たいものだけを見て、先入観をより強固にしていくという現象が起きている。これは世界共通の潮流だ。
昔からさまざまなメディアを使って洗脳や扇動が行われ、誤った選択は繰り返されてきた。だがネット時代の特徴は、あふれる情報を効率的に選別するシステムによって、自由な選択をしているようでいてむしろ特定の情報や意見に人々が誘導されるところにある。
公正な報道を掲げる機関が意図せずして加担してしまうリスクもある。新聞や雑誌の紙面(誌面)と異なり、読みたい記事しか見ないという読者側のニーズに応えるシステムも提供されているからだ。難しい問題だが、具体的な対策を講ずるべき時期に来ている。






















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