4月9日、広東省政府と香港、マカオの特別行政区政府の3トップがそろい踏みしたシンポジウムが都内のホテルで盛大に開催された。2月に発表されたばかりの経済開発構想「広東・香港・マカオ大湾区」を日本企業に説明し、投資を促すためのイベントだ。
中国では3月の全国人民代表大会(国会に相当)で外資系企業の活動に関する基本法として、新たに外商投資法が成立した。中国企業側が外資に技術移転を強制するのを禁じる条項などが盛り込まれ、2020年1月に施行される。米中貿易摩擦の下で、対外開放の進展をアピールする思惑が感じられる。そうした流れの中で、日本や欧州諸国への接近も目立つ。
前述のイベントもその一環だが、投資誘致の前に解決してもらいたい問題がある。中国当局による、不透明な理由での長期間の外国人拘束だ。
広東省の省都である広州で、伊藤忠商事の中堅社員が昨年2月から拘束され続けている。本件は、1年後に日本のメディアが報じるまでまったく世の中に知られなかった。伊藤忠は社員の解放に向けて秘密裏に交渉を続けてきたようだが、対外的には現在も「事実を確認中」とするだけで、背景を説明していない。
筆者の知りえた情報では、この社員は東京本社のプラント・プロジェクト部に属するN氏。40歳代の日本人男性だ。昨年2月に家族と休暇で中国・青島を訪れた際に拘束され、同6月に起訴された。拘束したのは、防諜を担当する国家安全局である。中国外交部(外務省に相当)の報道官は、伊藤忠社員の拘束は認めたものの、「中国の法に違反した」と述べただけで、具体的な嫌疑は不明のままだ。
中国語に堪能なN氏は過去に香港駐在員も務め、現在の担当は鉄道プロジェクトだった。伊藤忠が実績を重ねてきた広州市の地下鉄への車両納入商戦のほか、同社がタイを舞台に検討していた日中両国による「第三国市場協力」案件などにも関与していた。中国ビジネスの経験が豊富な人物だ。
人脈では解決しない
「伊藤忠でも社員を救い出せないのなら、日本企業はどこも無理だろう」。中国駐在経験が10年を超える銀行マンは表情を曇らせる。伊藤忠は日中国交正常化前から中国とビジネスを開始し、15年には国有コングロマリットのCITIC(中国中信集団)と資本・業務提携した。中国とのパイプの太さは日本企業で屈指だ。その伊藤忠に無理ならば、人脈を頼りにした水面下の交渉では事態は解決しないということだろう。
とくに日本人駐在員を不安にさせているのが、スパイ摘発の根拠法である「反スパイ法」の規定があいまいで、何が法に触れるのかが明確でないことだ。発注者である地方政府や国有企業の内情を探るなど、日本では通常の企業活動と見なされることが、スパイ行為とされてしまうリスクがあるのだ。これでは中国での外国企業の活動は萎縮してしまう。15年に反スパイ法が施行されてから、国家安全局に拘束されている日本人は少なくとも9人に上る。「投資どころか出張するのも怖い」という嘆きを聞くことが珍しくない。
百歩譲ってN氏が本当にスパイ行為を働いていたとしても、何をもってそう認定されたのかが不明のままでは日本側の疑心暗鬼はやまない。これは中国にとっても損失だ。中国で暮らす12万人の邦人の安全、そして日中の経済交流のために、中国側にはその自覚を持ってもらいたい。また日本の経済界は、機会があるごとにその懸念を中国の要人に伝えるべきだ。






















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