日本では政府が発表する統計への信頼が揺らいでいる。だが、統計を定期的に発表せず、発表してもその真偽がつねに疑われる国がある。北朝鮮だ。
GDP(国内総生産)や人口といった基本的な統計さえ、北朝鮮はなかなか発表しない。その理由を「米国と敵対関係にあるため、国の内実がわかる統計は発表できない」(北朝鮮の朝鮮社会科学院経済研究所の李基成(リギソン)教授)としている。だが、それでも思い出したかのように、重要な統計を発表することがある。
2018年10月、前出の李教授が共同通信のインタビューで、「16年のGDPは295億9500万ドル、17年は307億0400万ドル、人口はそれぞれ2515万9000人、2528万7000人」と明らかにした。この時期に突然発表した意図は不透明だが、これらから計算した1人当たりGDPは、16年は1176ドル、17年は1214ドルとなる。
これが正確であれば、現在の北朝鮮の経済はミャンマーと同水準になる。長らく軍事独裁が続き、10年ごろにようやく外国に門戸を開き始めたミャンマーと比べ、北朝鮮は依然として閉鎖的な国だ。だが、訪朝経験が豊富なビジネスパーソンや北朝鮮ウォッチャーは、これは妥当な数字と口をそろえる。
北朝鮮の外部から、同国の姿を数字で表そうとする試みも続く。韓国がその筆頭で、人口や各産業の状況などの統計を全般的に発表、北朝鮮の現在を数字で示している。また、国連機関の1つであるWFP(世界食糧計画)などが穀物生産量といった農業分野の統計を毎年発表している。
韓国はGDPではなくGNI(国民総所得)を発表しているが、韓国政府がみる北朝鮮の1人当たりGNIは約1300ドル。100ドル程度の差はあるものの、北朝鮮が発表する統計と同水準にみていることになる。
食糧事情には諸説あり
前出のWFPが5月末、「北朝鮮はこの10年間で最悪の食糧不足に陥り、約136万トンが足りない」と発表した。一方で、韓国や中国の北朝鮮研究者らの間では、WFPが発表する北朝鮮関連統計は誇張されたものだという反論もある。不足分は実は50万トン程度であり、現在の北朝鮮の経済力からすれば輸入などの手段で簡単に埋めることができるという。
北朝鮮も食糧や農業生産が十分ではないことを認めている。この2~3年、天候不順による水不足の影響で10年以降、増加してきた穀物生産量が減少に転じた可能性があることを明らかにしている。「今年1月から5月中旬までの全国平均降水量は56.3ミリメートルと平年の4割程度で史上最低水準」(北朝鮮農業省)という。同時に、育種方法や灌漑(かんがい)施設の改善を通じて生産量を増やしているとし、具体的な取り組みも紹介している。
核・ミサイル開発で軍事的には大きく見えるが、北朝鮮は経済から見れば低水準の開発途上国だ。また1990年代後半、30万人から300万人ともされる餓死者が発生したことがある。だが、ただ「貧しい=餓死者」とのイメージにとらわれたままだと、現在の北朝鮮を見誤る危険性が高い。90年代後半の北朝鮮と、20年以上経った現在の北朝鮮は、同じではない。社会主義は標榜したままだが、配給制度は脆弱になり、国民は自力で生活すべきだとの意識が定着しつつある。
「前提条件なしで、金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長と会う」との意欲を示した安倍晋三首相。その交渉相手がいる国は、彼の目にどう映っているのだろうか。






















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