不法移民流入を理由としたトランプ米大統領による対メキシコ制裁関税は、メキシコが国境対策強化を約束したことで無期限に延期され、産業界やマーケットは胸をなで下ろした。だが、移民問題にまで通商政策を絡め、制裁関税で脅して成果を得るという手法には、「大統領権限の悪用」として米与党・共和党内でも反発が強かった。これから米国との貿易交渉が本格化する日本にとっても、先が思いやられる話だ。
実際、日米貿易交渉の最大の焦点である自動車分野において米国は、国家安全保障と絡める手法で日本に圧力をかけている。5月17日、トランプ氏は通商拡大法232条に基づき、自動車・同部品輸入について日本、欧州連合(EU)と交渉し、180日以内に交渉成果を報告するよう通商代表部(USTR)代表に指示する布告を発表した。同条では、ある製品の輸入が米国の安全保障を脅かすおそれがある場合、大統領は輸入制限措置を発動できる。
今回の布告は、自動車輸入が米自動車メーカーに打撃を与え、研究開発投資が低迷して技術革新を阻害するため、米国の安保を脅かしかねないと判断したことを意味する。米国が重視するのは米メーカーの収益とシェアの拡大であり、日本勢の対米投資拡大だけでは解決できないと言っているに等しい。といって、日本としても輸出数量規制は簡単にのめる話ではない。交渉期限は11月13日であり、難航すれば米国が追加関税賦課や輸入数量制限措置を一方的に発動する可能性も指摘される。日本の経済やマーケットにも多大な影響が及びかねない。
トヨタの果敢な反論
即座に反発したのがトヨタ自動車だった。今回の布告は「米国の消費者、労働者、自動車産業にとっての大きな後退」とする声明を発表。過去60年で600億ドルに及ぶトヨタの対米投資が歓迎されず、間接雇用を合わせ全米47万人を超すトヨタ従業員の貢献も評価されていないことを示すメッセージだと不満を表明した。民間企業として異例の反論である。
問題は、交渉当事者である日本政府が、毅然とした姿勢で米国の管理貿易的手法にノーを貫き通せるかだ。トヨタも主張するように、輸入制限措置の最大の敗者は、販売価格の上昇や選択肢の減少に直面する米国の消費者である。米国で生産される自動車の部品は全世界から調達されており、米自動車メーカーにも打撃は大きい。結局、米国の雇用にも景気全体にも逆効果となる。こうした反論によって米国側を説得できるかどうか。
本来ならば、米国が早期に不利を解消したい農産品の分野で環太平洋経済連携協定(TPP)と同レベルの市場アクセス拡大で譲歩する代わりに、米国が今なお残す2.5%の乗用車輸入関税(日本はゼロ)の完全撤廃を要求するのが日本の目指すべき方向だろう。それが、安保を絡ませるトランプ流戦術によって厄介な状況に追い込まれている。さらに、訪日中のトランプ発言を機に、夏の参議院選挙後まで待つ代わりに農産物で大幅譲歩する「密約」の存在まで疑われる始末。政府は完全否定するが、トランプ流に翻弄され、混乱している印象は否めない。
6月28~29日には20カ国・地域(G20)首脳会合が大阪で開催される。全体会合よりむしろ米中会談の行方に注目が集まる中、安倍晋三首相は初の議長として保護貿易主義と世界的な緊張拡大の修正に向け、議論をリードできるのか。「自由貿易の旗手」として決意表明するだけではない本当の実行力が問われることになる。






















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