銚子電鉄、社長が自ら「運転士」を兼ねる台所事情 本業は税理士、3度目の挑戦で技能試験に合格

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「おかげさまで『社長自ら運転⁉』と自虐ネタがひとつ増えました。自虐ではなく、笑ってもらえる自虐になるようにと、私は『自ギャグ』と呼んでいるのですが。電車の運転士といえば昔から男子の憧れの職業です。子どもの頃の夢が叶ったと思って喜んで運転していますよ」

と竹本社長は笑ってのける。現在は週に1日から2日ほど、予備運転士として運転シフトに組み込まれている。

電車を運転するだけにとどまらない。「DJ社長が運転する貸し切り電車」なるものまで始めた。「DJ」というのは「ディスクジョッキー」だけではなく、「ドン引きする冗談」の略でもあり、「DJ列車」は、自らがDJ風にギャグを織り交ぜながら観光案内をする貸し切り列車だ。

副業集団のロマンチスト団長

銚子電鉄の役員体制は少々変わっている。取締役8名全員が本業を別に持ち、皆さん副業として銚子電鉄の取締役を務めているのだ。副業といってもほぼ無報酬で、銚電愛あってのボランティア活動に近い。竹本社長は、「役員報酬は月収ぬれ煎餅30枚円で皆さんに取締役をお願いしている」と言っているが、あながち冗談でもない。

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なぜ彼らは無報酬で銚子電鉄の役員を引き受けたのだろうか。

旅行代理店幹部の役員・柏木亮常務は、ある意味本業以上に熱心に企画立案や運営を担っている。中央大学鉄道研究会出身の彼は小田急ロマンスカーの大ファンで、実は銚電ファンではない。

そんな彼を、竹本社長が「ウチにはロマンスカーはないけど、ロマンはある」と説得した。今では銚子電鉄の広報をはじめプロデューサー的役割も担う重要なポジションに就いている。

リクルート出身で現在は有名企業の副部長を務めているという取締役もいる。彼は「本業に徹していればもっと偉くなっているはず」な人であるにもかかわらず、「乗りかけた電車ですから」と銚電の立て直しに日々奮闘し、「本業に邁進することも一つの選択肢だけれど、いつか年老いて自分の人生を振り返ったとき、やっぱりあのとき、銚電にかかわれてよかった。おもしろかったなあときっと思えるに違いない」と語っている。

竹本社長は言う。

「本業からちょっと外れているところに、仕事だけではたどり着けないおもしろさやロマンがあるのではないか」

銚子電鉄は、おかしなことばかりやっている妙な集団と思われているかもしれない。しかし、「銚子電鉄を走らせ続ける」という目的のために、仲間とともに報酬度外視で自身も走り続けるロマンチスト集団であり、その団長が竹本社長なのだと、私は思っている。

寺井 広樹 文筆家、実業家

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てらい・ひろき / Hiroki Terai

1980年神戸市生まれ。同志社大学経済学部卒。銚子電鉄の「お化け屋敷電車」「まずい棒」を企画プロデュース。『崖っぷち銚子電鉄 なんでもありの生存戦略』(イカロス出版、竹本勝紀と共著)、『企画はひっくり返すだけ!』(CCCメディアハウス)など著書多数。映画『電車を止めるな!』の原作・脚本担当。

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