「令和の日本型学校教育」何が昭和と違うのか 新しい時代を生きる子どもに必要な資質と能力
まさに、サブタイトルの「一人一人の~」という表現に答申の根本的な理念が表れているわけだ。一方、戸田市教育長の戸ヶ﨑勤氏は「従来の答申と比べたときの大きな違いとしてGIGAスクール構想の実現と、PCが学びの有力なツールになったこと」を挙げた。
「日本には150年に及ぶ学校教育の蓄積がある、それを生かしながら1人1台のPCを活用することで、個に応じた指導をより深いレベルで実現」するのが答申の狙いだとして、「これからの先生方には、いっそうのファシリテーション能力が求められる。教えるというところから、子どもたちを信じて寄り添う教育に転換していくべきだ。教えたからといって、伝わっているとは限らない。教師にこそ深い学びが求められる」とした。
今回のシンポジウムには、子どもの学習支援や居場所づくりなど多様な教育機会を提供する認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美氏も参加していた。今村氏は「一人ひとりの子どもを大切にするという点で、不登校児に対する支援を真剣に考えるべき」と警鐘を鳴らした。
「不登校児はどんどん増え、もはやマイノリティーではなくなっている。義務教育は、すべての子どもが無償で受けられると憲法にあるが、不登校児はそこからこぼれている。私たちが今、活動している島根県の雲南市は東京23区ほどの広さがある。だが、不登校支援センターは1つしかなく、小中学校は点在している。そこでICTの出番になる。でも、パソコンとWi-Fiと教育コンテンツを渡すだけではダメ。先生や大人が伴走して、気にかけて誘い出すことが大切で、学校の別室まで来られたらオンラインにアクセスする。実際、私たちの活動でもオンラインで学んでいる子がいて、そこには担任の先生もいてそれぞれに合った学びをしている。できれば今後、学んだことを学校に報告して出席したことになる、子どもの評価につながることを目指していけたらいいなと思っている」と語った。
二項対立ではなくハイブリッド、ベストミックスへ
ICTを活用した教育に詳しい東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也氏は「教育現場では、GIGAスクール構想のことがよく知られていなかったり、それでなくても忙しいのにPCまで使わなければならないのか、という受け止めもある。今の先生方は忙しすぎて余裕がない。これは働き方改革にもつながることで、そこを解決しなければ、先生が子どもたちの伴走者になることはできない」と指摘。「社会が変わり、人手も足りないのに昔と同じやり方をしているから余裕がない。もう前例踏襲のようなやり方はやめるべきだ」と話した。

これに対して、AI型教材「Qubena(キュビナ)」を提供するCOMPASS ファウンダーの神野元基氏も「これまでと同じ教育をしていたら、時代が変わったときに子どもたちは対応できない」としたうえで、「Society 5.0時代が来る。その中でどんな教育をしなければいけないのか、ということが今回の中教審のいちばんの問いだった。保護者なども巻き込んだ議論でICTは必要ないという結論になればそれでもいいと思うが、教育の機会格差はテクノロジーで埋めることができるのではないか」と述べた。
一方、離島・中山間地域の教育を中心に手がけてきた一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事の岩本悠氏は、「学校教育の本質的に大事なところは守るべき。しかし実現する方法はどんどん変える。それが不易流行の考え方」だと指摘。「オンラインかオフラインかという二項対立的な議論になりがちだが、多様な子どもたちを一人ひとり大切にするのであれば、どちらか1つの方法だけでは対応しきれない。だからハイブリッドとか、ベストミックスということを考えたほうがいい。ただ、現場で適切に組み合わせるのは、大変な手間と能力も必要になる。だから、そうしたマネジメントに必要な機能や人材、体制の強化などもセットで用意しなければいけない」と提起した。