JR西ベテラン社員が明かす「新快速」運転のコツ どっしり安定感ある117系、加速がよい223系

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「私が免許を取得した時代は、ペーパー教材がメインのいわゆる“詰め込み教育”でしたが、現在はシミュレーターやコンピューターを活用し、異常が発生した際の対応能力を向上させるためのトレーニングなども取り入れています」

このトレーニングは「Think-and-Act Training」と呼ばれ、マニュアルやチェックリストでは対応できない緊急事態が起こった際、ほかの社員などと連携・協力し、情報収集や対応ができる力をつけるためのものである。航空業界などで取り入れられているCRM(Crew Resource Management)訓練の鉄道版で、当時としては先進的な取り組みだ。

現在は明石電車区で若手運転士を指導する(筆者撮影)

現在、後藤さんは明石電車区の係長として、若手運転士の指導やフォローにあたっている。

「基本動作を確実に行うことの大切さや、どんな行動が失敗につながるのかなどをしっかり伝え、理解してもらうことを心がけています。また、つねに向上心を持ち、“自分に厳しい運転士”を目指してほしいと思っています。その気持ちが、キレイで安全な運転につながりますから」

かつて子供が4歳だったころ、自分が運転する列車に家族が乗ってきたときのことははっきり覚えているという。

「『お父ちゃんや!』という子供の声が客室から聞こえたときは、少し恥ずかしかったですが、安全への意識、自分が大勢のお客様を乗せているんだという責任の大きさを改めて認識しました。今でも乗務するときは、その気持ちを思い出すようにしています」

長男も成長して運転士に

後藤さんの長男は現在、運転士としてJR西日本でハンドルを握っている。つい先日まで、この明石電車区にいたそうだ。

「家ではあまり仕事の話はしないのですが、あのとき、息子なりに何かを感じて運転士になってくれたのだとしたら、うれしいですね(笑)」

後藤さんは「基本動作を確実に行うことが大切」と語る(筆者撮影)

歴代の新快速車両の中では「どっしりして安定感のある117系がいちばん好き」だという後藤さん。その117系を改造した「WEST EXPRESS 銀河」が、2020年9月にいよいよデビューした。

「先日、講習で実車を見ましたが、なじみのある車両があれだけかっこよくリニューアルされたのはうれしいですね。機会があればぜひ乗ってみたいですし、そのときは自分の技術をフルに使って、夜行列車にふさわしい乗り心地のよい運転をしてみせます。安全運転?それは言うまでもありません。運転士という仕事は、無事故でお客様を目的地まで運んで当たり前ですから」

今日も、後藤さんが教え育てた多くの運転士が、新快速をはじめJR西日本の各路線で活躍している。

伊原 薫 鉄道ライター

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いはら かおる / Kaoru Ihara

大阪府生まれ。京都大学交通政策研究ユニット・都市交通政策技術者。大阪在住の鉄道ライターとして、鉄道雑誌やWebなどで幅広く執筆するほか、講演やテレビ出演・監修なども行う。

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