フルキャスト事業停止 グッドウィルにも違法派遣の疑惑
日雇い派遣業界の両雄が激震に見舞われている。フルキャストは初となる全事業所での事業停止命令を受けた。最大手のグッドウィルでも重大な違法派遣の疑いが強まっている。(『週刊東洋経済』8月25日号より)
ワーキングプアの温床ともされる日雇い派遣の事業者に厳罰が下った。厚生労働省東京労働局は業界2位のフルキャストに対し、労働者派遣法で禁止業務とされている港湾運送に人材を派遣したとして、全事業所に対し1カ月の事業停止命令を出した。同様の命令は昨年10月にクリスタルグループ(現グッドウィル・プレミア)の傘下企業に出されて以来で、全事業所の事業停止という事態は初めてのことだ。
東京労働局の浅野浩美・需給調整事業部長は「今年3月の事業改善命令後に再発防止の十分な取り組みが行われていると確認できなかった」ことを処分の理由に挙げる。同社は全国の事業所で、やはり禁止業務である建設作業などへの派遣を繰り返したとして改善命令を受けていた。同社は「顧客からの発注書内容に疑問を持たず、禁止業務への派遣を未然に防げなかった」とする。が、「少し注意すれば港湾運送業務だとわかる内容だった」(浅野部長)。
確かに、現場の神戸港新港第2突堤を訪れると、派遣労働者が荷さばき作業に従事したコンテナは岸壁近くに位置していた。関係者は「誰が見ても港湾業務。大っぴらすぎて驚いた」と苦笑する。フルキャストの平野岳史会長は「港湾など禁止業務を想起させる発注に自動的に警告を発するシステムを構築した」と7月末の会見で胸を張っていたが、実際にはその導入は遅すぎた。
フルキャストの登録者は174万人。1日に約1・2万人が稼働する。スタッフの5割はフリーターで、日当は貴重な生活費。だが、日雇いという就労形態の性格上、休業手当の対象とはならない。社会保険の加入義務のある登録者はわずか数%で、失業保険の対象ともならない。日雇い労働者を対象とした保険の導入について厚労省の腰は重い。日雇い派遣の実情に詳しい「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は「日雇い派遣労働者は無保険状態のまま放置されている」と懸念する。
度重なる規制緩和でほぼすべての業務への派遣が認められるようになった中でも、港湾運送への派遣は禁止されている。港湾労働法で特別の雇用調整制度が設けられているのがその理由だ。加えて、港湾業務は戦前から「労働ボス」などによる不当な労働者支配や中間搾取が行われてきた典型業種でもあったためだ。また、安全確保の問題も大きい。厚労省の調査によれば港湾における死亡災害は2006年で14件発生しており、増加傾向にある。仕事内容も未経験者には勤まらない重労働が多く、派遣先の業務内容の確認も不十分になりがちな日雇い派遣事業者が扱うには危険性が高い。
実際に深刻な労災事故は発生している。今年2月、日雇い派遣最大手のグッドウィルと雇用契約を結び、三井倉庫の現場で作業をしていた男性(27)は左脚を骨折、3本の靭帯も切れる重傷を負った。仕事は陸揚げされたコンテナから重さ25キログラムの袋をパレットに積んでいく作業。高さ1・2メートルまで積み上げる作業を朝8時半から夕方5時まで繰り返し、もらえるのは8500円。
日給からは毎回200円が「データ装備費」として控除された。男性は事故が起きるまで、それを必要経費と思っていた。業務上の事故に備え、スタッフが運営する安全共済の掛け金であると説明されていたためだ。ところが事故後、見舞いに来たグッドウィルの支店長にこの話を持ち出すと、「(安全共済の)保険はない。今回は(事業所が加入する)労災(保険)で賄う」と言われた。今も男性はリハビリを続けているが、担当医からはひざに負担のかかる仕事は当面難しいと告げられている。