ここで、輸出の価格競争力を意味するドイツの実質為替レート(消費者物価ベース)の推移を確認してみたい。2020年を基準(100)とし、ユーロ圏と非ユーロ圏で輸出先の上位4カ国ずつ、計8カ国に関して、ドイツの実質為替レートの動きを比較した。まずユーロ圏だが、通貨が同一なため、単にインフレ格差ということになる。
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ドイツとともに大陸経済の両翼を成すフランスとの間では、2020年から2024年の4年間でおおよそ5%程度の格差が生じている。つまりこの期間で、ドイツはフランスに比べて5%ほど価格競争力を失ったわけだ。同様にイタリアに対しても2%ほど価格競争力を失ったが、反面でオランダやオーストリアに対しては価格競争力を高めている。
ユーロ圏内や対中国で価格競争力が低下
オランダへの輸出は同国が最終消費地でない可能性が高いため評価が難しいが、ドイツ製品がユーロ圏の大国に対して価格競争力を失ったことは確かだろう。これは主に、ドイツのエネルギー政策の失敗に起因する。要するにロシア産ガスへの依存度が高かったドイツは、ガス価格の急騰が直撃し、価格競争力の低下につながった。
他方で非ユーロ圏はどうか。とりわけ物価が安定している中国に対しては、ドイツの価格競争力がおおよそ10%も低下している。その中国では、民族系メーカーの躍進も著しいため、ドイツ製品は価格のみならず品質の面でも、従来のような優位性は失われている。ドイツ企業にとって、中国はかつてのようなキャッシュカウ(金のなる木)ではなくなった。
対してポーランドや英国、アメリカでは、ドイツ以上の高インフレが生じたため、ドイツ製品の価格競争力が高まっている。特にアメリカに対する競争力は顕著に改善したが、そのアメリカは今、貿易赤字の削減に邁進するとともに、対アメリカ投資の増額を要求している。ゆえに価格競争力が改善したところで、ドイツ製品の対アメリカ輸出の増加は望みにくい。
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