今や錦の御旗となった「実質賃金の上昇」の残念感 抽象的すぎるフレーズ、実現の経路は複雑怪奇

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エネルギー自給率が13%程度(2021年度)、食料自給率が38%程度(2023年度)という日本において資源高と通貨安の併発が国民生活に直結することは必然の帰結だが、「円安は善、円高は悪」という単純な二元論が圧倒的に幅を利かせてきた。円高になれば必ず円安に引き戻すような誘因が常にあった。

交易損失が拡大してきた背景に為替問題は明らかに無関係ではない。

円安への固執は根が深い。輸出製造業を主軸として世界有数の経済大国にのし上がったという成功体験が通貨高への軌道修正を阻んだという論は多い。

輸出主導の成功体験が生んだ円安盲従

かつて行天豊雄元財務官は日本経済新聞で「先進国の中で日本ほど自国通貨の為替相場に一喜一憂する国はない。率直にいって異常である」と論じていたことがあるが、その背景としてやはり輸出主導型の経済成長を成し遂げた経験が作用していると指摘していた。現状維持バイアスが強い日本において無視できない論点である。

一方、輸出物価に関しても、輸入コストの上昇を転嫁してもなお、海外へ輸出できる競争力のある財が生まれてこなかったという経緯があるとして、それを交易条件悪化の一因と指摘する声はある。この辺りはより産業別の分析を要する論点であろう。現時点で筆者の詳述は控えたい。

ただ、交易条件悪化について輸入側の議論は盛んであるが、輸出側の議論はさほど耳にしないことについて、若干の違和感は確かに覚える。

現時点では交易損失の拡大を抑止するにあたっては、まず無為に円安を追求するような政策を展開しないことはもちろん、海外への所得流出の根源となっている鉱物性燃料輸入を抑制するために原発再稼働を模索する必要なども候補として挙がってくるだろう。

この点、原発再稼働についてはさまざまなイデオロギー対立も絡んで容易ではないが、円安に盲従する社会規範は明らかに2022年以降に変わったという確信がある。円安がある程度の不可逆性を帯びた段階でこの意識変化が起きたことは悔やまれるが、結局、人間は経験からしか学べないということかもしれない。

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