神田前財務官「普通の市場経済が日本を強くする」 【後編】介入では反転できない長期の国力低下

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――長期の国力については、今年3月に国際収支に関する懇談会を立ち上げ、貿易収支の赤字基調やデジタル赤字の拡大など切り口に有識者を集めて議論した。(懇談会の報告書などはこちら

神田 これも足元の為替とは関係のない話だ。だから時期も選んだ。

私は以前からさまざまな改革を唱えてきたが、日本の課題を整理するのに国際収支はいいレンズだと思ってアイデアを温めてきた。だが、なかなか時間がとれなかった。

財務官としてG7財務大臣・中央銀行総裁会議の議長国、ASEAN+3(日中韓)財務大臣・中央銀行総裁会議の議長国を務めて多忙を極めたが、議長国の任期が終わって少し時間の隙間ができた。しかも為替も少し落ち着いていて、懇談会が足元の円安と関係するような誤解を与えないであろう時期に立ち上げた。

存続不可能な企業を守る政策をやめる

――日本の課題に対し、どう手を打てばいいと考えるか。

神田 私は日本を強くしたいと思っている。そのためには、普通の市場経済にすればいい。今は賃金も上げられない、金利も払えない、税金も払えないような企業を守っている。それが日本の潜在成長率が低い理由だ。

存続不可能な企業をつぶれないように守る政策をやめるだけで、だいぶ変わる。市場で労働者と資本がより生産性の高いところ、利益の上がるところ、高い給料を出すところにダイナミックに移動するようになる。

その代わり、セーフティーネットはきちんと設けるし、再分配やリスキリングもしっかりやる。弱者を守ることが正しいし、社会不安を煽らず、ポピュリズムを抑止する。

――市場経済は有効だが、マーケットにおける投機には介入する、と。

神田 投機によってファンダメンタルズを反映しない過度な為替の変動が起きるのは市場の失敗だからだ。市場競争の結果、独占、寡占、下請けいじめが生じるので、競争政策が必要であるのと同じことだ。

例えばGAFAが巨大企業になったのは国家の力ではなく、まさに政府にまったく頼らないベンチャーが世界を席巻した市場主義の勝利だが、その後、テックジャイアントがベンチャー企業に対するM&Aによって競争を阻害するなど寡占の問題も起きる。それはやはり市場の失敗であって、規制し是正しなければならない。

公平公正な市場を維持すること、そして市場競争の結果、生じた格差に対する所得の再分配や脆弱な人々への支援を行うことは政府の大切な任務だ。市場に任せると生じる矛盾を是正する重要な機能を政府は持っている。

黒崎 亜弓 東洋経済 記者

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くろさき あゆみ / Ayumi Kurosaki

特に関心のあるテーマは分配と再分配、貨幣、経済史。趣味は鉄道の旅、本屋や図書館にゆくこと。1978年生まれ。共同通信記者(福岡・佐賀・徳島)、『週刊エコノミスト』編集者、フリーランスを経て2023年に現職。静岡のお茶屋の娘なのに最近はコーヒーばかり。

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