神田前財務官「普通の市場経済が日本を強くする」 【後編】介入では反転できない長期の国力低下

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――アメリカの利上げは危機を招かずに済んだ一方、日本の円安に影響が集中したようにも見える。

神田 安牌(アンパイ、安全な選択肢)として投機筋に狙われたということに尽きる。「円売りはリスクもなくもうかる」という怒涛の流れがあった。

先進国で続いた金融緩和による過剰流動性とコロナ対策の財政出動でお金が余っている。それがリスク資産に向かった。新興国通貨はマーケット規模が小さく、ドル円、ユーロ円は規模的にも魅力的だったのかもしれない。

加えて、各国が利上げする中、日本は金融政策をあまり動かさなかった。投機筋は、日銀の金融政策決定会合の結果や要人発言を、円売りを仕掛けるトリガーにしていたといわれる。

日銀と財務省「矛盾ではなく補完」

――政府が為替介入で円安を食い止める一方、日銀は低金利を維持することが円安を招き、通貨政策が分裂していたとの指摘がある。

神田 両者はマンデート、法的な目的が違う。日銀は物価の安定が使命で、財務省は通貨の安定が使命だ。矛盾ではなく、補完しているともいえる。

中央銀行の独立は極めて重要だ。今の法律上も自主性がうたわれているし、私の個人的な考えでもある。ある意味で民主主義の例外かもしれないが、独立していることが物価のアンカーになる。中央銀行の信頼を崩すのは簡単だが、維持するのは非常に大変だから大事にしなければならない。

それゆえ金融政策を決めるのはあくまで日銀の金融政策決定会合だが、他方で日頃から意思疎通と連携が重要だ。互いの状況認識と政策理解があれば、サポートし合えて、よりマーケットともコミュニケーションがしやすい。だから黒田東彦前総裁とも、植田和男現総裁ともひんぱんに話をしてきた。

誤解を恐れずに言えば、日銀幹部にも海外の中銀幹部にも信頼できる友人が多く、日ごろから相談しあってきている。金融政策の具体的手法を決めるのは中央銀行だが、政府と中銀の日常の意思疎通は徹底し、共通の現状認識のもと、補完しあえる仕事ができるのが望ましい。

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