小泉進次郎氏が主張「解雇解禁」議論の空回り懸念 河野氏も主張し自民党総裁選で争点として浮上

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出馬会見時の質疑応答で、緩和する解雇規制の具体的内容について問われた小泉氏は、こう語っている。

「金銭の補償については特に中小企業にとっては専門家の検討が必要。今回言っているのは大企業の話。判例の中で4つの要件があってそれを満たさないと人員整理が認められにくい。その状況を変えていきたい」

「特に4つの要件の中の2つ目。人員整理をする際に解雇を回避する義務を履行したか(どうかを判断するうえで)、今は希望退職者の募集とか配置転換の努力を行うこととされているが、私はこれにリスキリング、学び直し、再就職支援を大企業に義務付けたい。それを実現するために私は来年、国会に法案を提出したい」

つまり小泉氏の主張する解雇規制の緩和とは、長年議論されてきた解雇の金銭解決制度の話ではなく、大企業に限定した整理解雇時の要件緩和を意味するようだ。

ただ、先に触れた通り、整理解雇の4要件はあくまで判例法理。「法改正」でこれを緩和するには、そもそもまずこの整理解雇法理を法律に明記することが必要になり簡単な話ではない。

そのため短期的に法改正で対応できるのは、判例法理を法定化した解雇権濫用法理のほうだが、仮にこの条文を緩めるとすると理屈上、客観的に不合理で社会通念上相当と認められない、権利の濫用といえる解雇であっても認められる、といった内容になるわけだが、果たしてそんなことが許されるのだろうか。

何度も波紋を呼んできた解雇緩和

「来年法案を提出します。まさに“決着”とつけている通り(総裁選の小泉氏のキャッチフレーズは『決着 新時代の扉をあける』)、長年議論されているので、あとは政治の決めです。そこの強い思いをもって不退転の決意で臨む」

小泉氏はこう語気を強めるが、繰り返しになるが長年議論されてきたのは解雇の金銭解決であって、整理解雇や解雇権濫用法理の要件緩和について、労使で長年議論されてきていよいよ煮詰まってきたとは、寡聞にして聞いたことがない。ちなみに日本は解雇規制が厳しいと思われがちだが、経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、加盟国の中では緩いほうに位置付けられているのが現実だ。

これまでも、例えば第1次安倍内閣が発足した2007年にも、政府の規制改革会議が、解雇権濫用法理などこれまでの労働規制や労働市場のあり方を全面的に否定する内容の文書を出して、各界に大きな波紋を巻き起こすなど、解雇規制の緩和が社会の閉塞感を一掃する「魔法の杖」のように喧伝されてきた嫌いがある。

だが、解雇は給与収入という日々の生活の糧を失うことに直結するのみでなく、働く者の社会的名誉や自尊心をも傷つける、いわば「劇薬」だ。どう用いるにせよ取り扱いは要注意であり、ゆめゆめ政治家の人気取りのために弄ばれるようなことはあってはならない。

風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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