まずアメリカ経済を概観すると、8月2日に発表された7月の雇用統計は、平均時給が前年比プラス3.6%まで減速し、インフレに対する安心感をもたらした一方、非農業部門の雇用者数の増加幅は前月比プラス11.4万人に留まり、失業率も4.3%へと上昇するなど、やや不気味な結果となった。
筆者は現状のアメリカ経済について「景気が何とか底堅さを維持する中で、インフレ沈静化に成功しつつある」という評価が妥当と考えるが、金融市場参加者が景気後退懸念を惹起したのは否定しようのない事実であろう。
利下げ余地が大きいアメリカ経済
ただ、ここで肝に銘じておきたいのは、アメリカは究極的には5%の利下げが可能であること。後述するようにFedの利下げは既定路線であり「景気が悪いのにインフレ率が高いから利下げができない」という詰んだ状態ではない。いざとなれば連続利下げで景気浮揚を狙うことは容易にできる。
そう考えると、重要なのはやはりインフレ動向だ。インフレの帰趨を読む上で最も重視すべき賃金については、その先行きについて、求人動向が有益な情報を与えてくれる。
そこで7月30日に発表された6月のJOLTS(労働離職率)統計に目を向けると、求人件数は818万件と前月から減少した。極度の人手不足に直面していた2022年3月の数値が1200万件強だったことを踏まえると、大幅な減少で、人手不足が解消しつつある様子がうかがえる。
同時にFed高官が注目する、失業者数に対する求人件数の割合も1.20へと低下した。この数値も2倍程度まで高まっていた2022年3月から大幅に低下し、今やパンデミック発生前と同水準に落ち着いている。
この尺度でみれば、アメリカの労働市場は(景気後退を経験することなく)正常化を果たしたと言えるだろう。同じく正常化を取り戻した尺度としては自発的離職率があり、6月の数値は2.07と2019年平均値2.33を明確に下回った。
転職活動の活発度合いを示すこの指標は賃金(平均時給)の先行指標として機能してきた経緯があり、現在もその先行指標として注目されている。これらから判断するとインフレの最重要要素である賃金は、更なる鈍化が予想される状況にある。
そうなるとFedの利下げは確定的であろう。7月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、更なるデータの蓄積が必要との判断からFF金利は据え置きとなったが、上記のマクロ指標等から判断すれば、9月FOMCにおける利下げは既定路線と言って差し支えない。金融市場の緊張が高まるならば0.5%ptの利下げが俎上に載る可能性も十分にあるだろう。
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