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アメリカと中国の摩擦を激化させる「競争力」幻想 かつての日米摩擦と違って妥協は極めて難しい

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中国EVへの制裁関税はクリントン政権の「戦略的通商政策」を想起させる。

中国のEV輸出攻勢の背景には、巨大な自国市場効果がある。江蘇省蘇州市で船積みを待つEV(写真:Getty Images)

米バイデン政権は5月14日、中国製EV(電気自動車)に、現在の4倍に当たる100%の制裁関税を課すと発表した。廉価な中国製EVや太陽光発電パネルなどの輸出が欧米の製造業への脅威になる、「チャイナショック2.0」と呼ばれる現象がその背景にあるといわれている。

チャイナショックとは、中国のWTO(世界貿易機関)加盟前後である1990年代末から21世紀初頭にかけて、中国からの工業製品の輸出増加が米国内における雇用を減少させ、またそのことをめぐる政治的分断をもたらした一連の現象を指す。

ただし、現在の米中の製造業を取り巻く状況は中国のWTO加盟当時とは根本的に異なる。

当時は、非熟練労働力が豊富な中国における労働集約的な産業や工程(アセンブリーなど)で製造された製品が大量に輸出されることで、アメリカなど先進国における同様の産業が競争力を失い、その結果雇用が減少した。これは国内の生産要素の賦存状況を重視する、古典的な貿易理論の枠組みで説明可能だった。

しかし、現在EVや太陽光発電パネルなどの産業で生じている現象は、そうした古典的な比較優位論では説明できない。

この現象を理解するのに必要なのは、1980年代にポール・クルーグマンやエルハナン・ヘルプマンらによって研究が進められた、収穫逓増を前提とした新貿易理論である。新貿易理論は、仮に労働や資本の賦存状況が同じでも、企業の立地の偏りによって各国の生産コストに違いが生まれ、その結果貿易が生じることを示した。

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