京大総長「多様性確保」の本気、理・工学部入試で導入の「女性枠」について語る 「研究力が落ちる」「逆差別」の声は的外れな批判
――入学後のサポートや環境整備についてはいかがですか。
女性学生だけでなく、女性教員のためにも環境整備を進めているところです。設備面は、トイレなどは以前から整えてきていますが、必要な部分は早急に改善が必要だと考えています。昨年12月には、教員等向けの学童保育所「京都大学キッズコミュニティKuSuKu(クスク)」を学内に設置しました。お子様を預かるだけでなく、学内の教員や大学院生が子どもたちに向けて学問に絡めた教育プログラムの提供もしており、人気を博しています。

また、外国人女性教員の指摘を受け、教授会の会議は遅くとも午後6時までには終わるようになった部局もあります。この方針は、学内の会議にも広がってきています。そのほか、日常生活でのさまざまなストレスに対するケアも女性学生からニーズが非常に強いので、カウンセラーの人手を増やす予定です。学生は大学にとって大事な存在。これからも今まで以上に手をかけて、ケアを手厚くしていきたいと考えています。
「外国人教員や留学生」も活躍できる環境を
――そのほか、「人材多様性の確保」に関して力を入れて取り組まれていることはありますか。
女性と同様、外国人教員や留学生も単に数を増やすのではなく、インクルードして活躍できる環境をつくらなければ、本当の意味での多様性の確保にならないと思っています。
京大では今、大学院でかなり留学生が多くなっていますが、学位を取った留学生にどのようなキャリアパスを提供できるかが課題となっています。
いわゆるポスドク問題が大きく影響しています。欧米では研究費にはポスドクの給料が含まれていますが、日本の研究費には含まれていません。そのため雇用が難しく、日本の大学院博士後期課程の進学率が低下しているわけですが、そのことで留学生もキャリアパスが描きづらくなってきています。東南アジアからの留学生にはまだ人気があるものの、このままでは日本に留学生が来なくなると思います。
本来ならアメリカのように、成果を出せば研究者として大学に残れる明るい道が開かれているべきです。だから京大では、優秀な日本人学生にはもちろん、留学生に対しても、大学の中で何とか研究費をつくって支援するほか、大学のスタッフとして生き延びる道をつくっていかなければいけないと考えています。
――多様性の確保により、どのような人材を社会に送り出したいとお考えでしょうか。
われわれは単なる戦力ではなく、京大が受け継いできたパイオニア精神を持った人材を育てたいと思っています。研究でもビジネスでも、哲学でも思想でも何でもいいので、自分たちの研究や学問で社会を変えていく、社会にインパクトを与えていくという気概を持ってほしいですね。
例えば、京大からは今、核融合をはじめ、ディープテックのスタートアップが多く誕生していますが、ひょっとしたら20~30年後の世界のエネルギー事情を変える存在になるかもしれません。時間はかかっても、社会を変革するようなことにチャレンジする、さまざまな分野でパイオニアとなるような人材を育てていきたいと思っています。
(文:國貞文隆、写真:京都大学提供)
東洋経済education × ICT編集部
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