京大総長「多様性確保」の本気、理・工学部入試で導入の「女性枠」について語る 「研究力が落ちる」「逆差別」の声は的外れな批判
欧米の大学の研究体制は領域や部門ごとのデパートメント制であり、チェアマンの下、若手から中堅の教授・准教授やポスドク・院生などを含め20~60人の組織となっています。日本でも成果を上げるために、欧米型のフレキシブルな研究体制をつくらなければいけません。
そのために特区をつくって「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」にも取り組んでいますが、これはあくまで特区でありコアではありません。多様性のメリットを生かしていくためにも、コアである大学の組織体制を変えていきたいと考えています。
「何とかしないとまずい」、危機感を募らせた教員たち
――「人材多様性の確保」に関しては、第4期中期目標・中期計画において、女性学生比率や女性教員比率の増加がキーワードとして挙がっています。実際、2026年度入学者の入試から、理学部と工学部で女性募集枠を設けると発表され話題となりました。女性募集枠設置に至った背景や狙いについてお聞かせください。
京大は自然科学系の分野が多くを占める大学であるため、歴史的に女性学生が少ないという背景があります。理・工学部の全学生に占める女性学生の割合は10%前後、女性教員も12~13%と主要国立大学で最低レベルの状態が続きましたが、これは明らかに世界のスタンダードから外れています。
また京大は、5年前の時点で40歳未満の教員は全体の17%程度と、若手研究者が極端に少なくジェネレーションギャップの問題も抱えています。そこで、外部資金も活用しながら教員を採用できる仕組みをつくり、若手研究者、とくに女性を優先的に採用するよう努めています。
こうしたアファーマティブな取り組みが奏功し、女性教員比率はここ3~4年で16~17%まで上昇しました。2027年度までに20%を目指していますが、さらに目標を引き上げたいと思います。
しかし一方で、若手の女性研究者はほとんどいないまま。実は、ここを「何とかしないとまずいのでは」と危機感を募らせたのは、理学部や工学部の先生方でした。多くの先生方がグローバルに活躍されているので、日本がおかしいことを理解されているんですよね。だから女性募集枠の導入に至ったわけですが、全学会議でも大きな反対はありませんでした。
ただ国立大学は、制度的に一般入試では女性募集枠をつくれないため、特色入試の枠を広げて女性募集枠を設けました。
――具体的にはどのような入試になるのでしょうか。
理学部では「総合型選抜」、工学部では「学校推薦型選抜」で女性募集枠が設置されます。両学部計98人の定員に対して女性募集枠は39人。レポートなどの書類審査と大学入試共通テストの成績などによって合否が決まります。
実はこれまでの特色入試では女性の割合が多く、一般入試の入学者と比べても入学後の成績は良好なんですよ。むしろ目立って活躍するケースもあります。そのため、将来の日本の学術を担う女性を育成するためにも、2年目以降は特色入試枠をもう少し拡大して女性募集枠を増やせないかと考えています。
とはいえ、ジェンダーギャップの影響が大きい学部を早期に是正していくべきだとの考えで取り組んでいますので、農学や医薬、建築などもともと女性が多い領域には、女性募集枠を設けるつもりはありません。
「研究力が落ちる」「逆差別」はまったくの的外れ
――女性募集枠設置には批判の声もありますが、その点はどう捉えていらっしゃいますか。
例えば、このまま女性募集枠を増やすと「将来的に京大の研究力が落ちるのではないか」といった声がありますが、それはまったく的外れな批判です。学内でさまざまなデータを取っていますが、今いる男女の教員の研究成果や科研費の取得率などを比較してもまったく遜色ありません。
また、今まで女性は社会的な差別をされてきて、しかも見て見ぬふりもされてきたわけです。そうした問題のあったプロセスやシステムを正常な状態に是正することに対して「逆差別」だと批判するのも、まったくの的外れです。