不動産不況の到来が国民生活を圧迫するという矛盾 習氏の「共同富裕」運動も住宅は依然として割高

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住宅価格を国民の手の届く水準に抑えようと取り組んでいるのは中国だけではない。住宅が値上がりする一方で、賃金は伸び悩み、シドニーからストックホルムに至るまで特に若年層が住宅を買うのは難しい。経済協力開発機構(OECD)に加盟する19カ国で、住宅購入への道は金融危機が起きた2008年の前より険しくなっている。

国民は貯蓄を株式など金融商品でなく不動産に

中国が抱える課題は途方もなく大きい。北京と上海の住宅価格は今世紀に入り、それぞれ10倍と12倍になった。経済の開放が進む中で、国民は貯蓄を株式といった金融商品ではなく、不動産に投じた。

ノルデア銀行の調査によると、所得に対する住宅価格(中央値)の比率は21年末時点で北京では25倍余り、香港は約20倍、米国は7倍だ。不動産会社の易居(中国)企業によれば、中国本土では20年の9.2倍から21年には9.1倍と若干改善された。

ただ金融センターの上海では、950平方フィート(約88平方メートル)のマンション(2ベットルーム)が約72万5000ドル(約9700万円)で売られている。

習主席は16年には「住宅は住むため」にあり、投機の対象ではないと述べていた。共同富裕は20年までに、所得や教育、住宅における格差を是正する取り組みのキャッチフレーズとなっていた。

不動産規制で住宅は値下がりしたが、業界が被った経済的コストは大きかった。住宅市場の低迷に加え、習政権が新型コロナウイルスを徹底的に抑える「ゼロコロナ」政策を続けたことで、31大都市の失業率は今年11月には6.7%に上昇。コロナ禍初期のロックダウン(都市封鎖)時を除けば、14年以来の高水準だ。

「不況となった今、中国経済への重しは長期にわたるだろう」と独立系エコノミスト、ジョージ・マグナス氏は予想。習政権に関する著書もある同氏は「何が起きるか、そしてその結果がいつまで続く可能性があるか、政府が想定していたとは考えづらい」と指摘した。

中国経済における不動産の重要性は強調してもしきれない。新築住宅市場の規模が2兆4000億ドルとか、中古住宅・在庫は52兆ドル相当だとか、各種推計はあるが、中国の不動産セクターは19年時点で米国の2倍に相当する規模だった。不動産は中国国内総生産(GDP)の4分の1程度を、家計資産の80%近くを占めている。

未完成の高層住宅(恒大集団による開発プロジェクト建築現場、武漢)Photographer: Andrea Verdelli/Bloomberg

原題:China’s $1.3 Trillion Housing Crackdown Leaves Few Winners(抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

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著者:Bloomberg News

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