二刀流教師•山本崇雄「教えない授業」が生徒の自学力を育む、納得の理由 教育活動の主語は「生徒」、変わる教師の役割は?
「ノートの取り方についても、ただ板書するだけではダメで、再現性を持たせるような取り方を教えています。内容を絵や図で表現したり、先生の話をメモするのもいい。そうやって自分なりに作ったノートを基に、生徒同士で今日の授業を再現し合ってみる。帰宅してから、ぬいぐるみに向かって話してもいいのです。多くの生徒はノートの取り方といった勉強の仕方がわかっていません。ですから、アウトプットを意識してノートを取ることを勧めているのです」
多様化する社会と、変わる「教師の役割」
今、教育のICT化は待ったなしの状況にある。授業内容も「教えない授業」という方向に進んでいるように思われるが、一方で、教師の役割はどう変わっていくのだろうか。
「子どもたちが、自ら目標設定をし、メタ認知と自学自習ができるようにしてあげることが、これからの教師の大きな役割になっていくと思っています。わかりやすく教える技術も、もちろん大切なのですが、生徒が目標を達成するための手段をたくさん持っている、あるいは、その経験値が先生にあることが大事になってくるのです。さらに、対話する力も欠かせないでしょう。“金八先生のドラマ”も対話しているようで、本当はトップダウンで自分の価値観を押し付けているにすぎないように見えます。これからはスポーツ選手の優れたコーチのように、教師も適切なコーチングをしていくことが重要となってくるのです」
子どもたちが将来、社会で幸福に生きていくためには、自立しなければならない。それには感情をコントロールしたり、必要な情報を手に入れたりしながら生きていく非認知能力が欠かせない。にもかかわらず、今も偏差値という認知能力のみに偏った教育が行われている。しかし、これからの時代は偏差値という1つのスキルだけでは生き残れなくなっていくと山本先生は指摘する。
「多様化する社会の中では、どんなに対立関係にあろうと、目標達成に向け、対話というプロセスを通して合意していくことが重要になります。コミュニケーション能力はまさに社会で必要な能力の1つなのです。その意味でも、学校で対話ベースの教育をしていかなければならない。もっと言えば、学校で多用されている多数決は得てして弱者を排除することにもつながります。だからこそ、学校で対話を学ぶことは、誰も取り残さない民主主義を再構築することにつながっていくのです」
そう語る山本先生は、学校で今、失われているのは、何のために学んでいるのかという目的だという。テストをはじめとして手段が目的化しているために、何のために学び、教えているのか、生徒も教師も答えることができない。だからこそ「教えない授業」を通して、子どもたちが主体的な学びができるように「学び方改革」が必要なのだと山本先生は強調する。
「働き方改革と同様に、学び方改革が今、大事になっているのです。例えば、家で1日3時間勉強しましょうと言うのは、1日3時間残業しましょうね、と言うのと同じことです。これからはいかに学校で効果的に勉強し、自宅で勉強する時間を減らすか。そうやって自律的で主体的な学びにシフトにしていくことが豊かな人生を築いていくうえで欠かせなくなっているのです」
「教えない授業」をキーワードに、実践的な教育改革を進める山本先生。そんな先生が、現在必要な情報を必要な子どもたちに届けるためにボランティアで取り組んでいるのが、「ミライのテラコヤ オンライン」だ。
「オンラインで誰でも、どこからでも無料で参加できるもので、ノートの取り方を教えたり、勉強の仕方や、わからないときの解決の仕方を教えたりしています。意外にも学校では、学び方を教えてくれることはほとんどありません。無料のAI教材を提供しているプラットフォームがあることを教えるだけでも意味のあることだと思っています。塾に行けないとか、僻地に住んでいたり、不登校だったりする子どもたちにぜひ利用していただきたいですね」