二刀流教師•山本崇雄「教えない授業」が生徒の自学力を育む、納得の理由 教育活動の主語は「生徒」、変わる教師の役割は?
そのとき気をつけなければならないのは、目標設定の仕方だ。
「英検を事例に挙げましたが、目標はリアルな社会につながったものにしたほうがいいでしょう。例えば、“世界中の子どもたちと文化交流したい”という目標を設定したとします。次に、今の自分は英語でなかなか意見が言えないというメタ認知ができれば、では自分ができる学び方は何だろう、ということを具体的に考えることができます。そして最終的に、AI教材を使おう、先生と放課後に練習しよう、といったさまざまな方法を子どもが自ら考えることができます。そして英語の授業でスピーキングを学ぶことの意味を見いだすことができるのです。今はネット上でも自学自習できるいろいろな手段があります。それを自分でアレンジして、学習をデザインしていく。私は決して教えることを否定しているのではなく、生徒をコーチングしていく流れで、時に『教える』という手段を使うのが理想だと考えているのです」
こうした「教えない授業」について、山本先生は多くの著書を持つ。しかし、今なぜこれほど注目を集めるようになったのだろうか。
「6年前に本を出したときには、タイトルを見ただけで批判されることがありました。講演をしても、それは特別な学校の特別な先生によるものだという受け止め方も多かったんです。しかし、それが変化した。いちばん大きいのはコロナ禍だと思っています。コロナ禍で物理的に『教える授業』ができなくなってしまった。オンライン授業では子どもたちはヘトヘトになり、集中力が持ちません。子どもたちの集中力はせいぜい10分が限界です。結局、先生たちが生徒をコントロールして教えるという教育の限界を感じたことが大きいのではないでしょうか。子どもに教えすぎずに、子どもが自分の力で学べるようシフトし、すべての教育活動の主語を生徒に置いて、自律的学習者を育てる授業を実践するようになりました」
必ず教えることは「学び方」
この「教えない授業」は、文字どおり教えないことが特徴だが、その反対に必ず教えていることもあるという。山本先生は、それは「学び方」だと明かす。
「今、学んでいることは何か。つまずきがあればそれはどこか。まずそれがわからなければ、自分で検索もできません。例えば今、英文法でつまずいているのが『現在完了』であると分からなければ解説動画など検索できません。文法用語は検索のキーワードとして教えることが重要です。英単語を覚えるなら、どんな勉強法があるのか。リスニング力を向上させるにはどういった方法があるのか。そうした学び方を教えることが欠かせないのです」
では、「教えない授業」によって子どもたちはどう変化していったのだろうか。
「確かに最初は、“教えない”ということに不安を感じるのか、“教えてほしい”と言う生徒もいました。そんなときには、授業の冒頭で『これから10分ほどで今日のポイントを教えるから、それを基に自分たちで学び合ったり、教え合ったりしてみよう』と伝えます。その経験を積み重ねていくうちに、10分の説明が5分、3分となり、最終的に子どもたちが自分たちで主体的に勉強するようになったのです」

(写真:山本氏提供)
皆さんにもこんな経験はないだろうか。インプットばかりしていても、いざというときアウトプットができない。逆に、日頃からアウトプットしていると、その過程で問題点を把握でき、インプットするだけよりも深く吸収できるようになる。自分でアウトプットすればするほど、インプットも的確にできるようになるのだ。山本先生はそれこそが重要だと言う。