読み始めてすぐ意外な記述を目にした。イスラム主義組織、タリバンの創設者であるムハンマド・ウマルの演説、それも彼が国際テロ組織、アルカイダを率いたウサマ・ビンラディンに騙(だま)され大量殺戮(さつりく)に加担したことを懺悔(ざんげ)する演説の録音があるというのだ。さらに意外なのは、ウマルがアフガニスタンの社会を正し平和を求めて立ち上がった人物だった、という評価だ。ウマルは日本では多くのテロや犯罪に手を染めた犯罪者として悪名が高い。
著者の髙橋博史は、アフガニスタンのカーブル大学への留学を経て外務省中近東第二課に勤務、アフガニスタン駐箚(ちゅうさつ)特命全権大使などを歴任した中東の専門家だ。人脈もタリバン幹部から反タリバン勢力の実質的な最高指導者だったアフマド・シャー・マスード司令官までと幅広い。
本書は、タリバン総帥のウマル、北部同盟のマスード司令官、アフガニスタンのロビンフッドといわれたマジッド・カルカニーとその周辺の人物に焦点を当てたドキュメントである。彼らがそれぞれの戦略を基に平和を求めて戦う姿と、夢半ばで敗れ去っていく様子が描かれる。
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