前回の本連載では、1972年8月3日に当時のソ連における最高意思決定機関であるソ連共産党政治局の会議で、歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島を日本に引き渡す形での平和条約締結が検討されていたことが明らかになったとのスクープをモスクワ発で共同通信が報じたことを紹介した。筆者は、このスクープに関して「北方領土に関する機微に触れる文書の公開には、ロシア外務省とクレムリン(ロシア大統領府)の決裁が必要とされる」ので「クレムリンはこのタイミングで歯舞群島、色丹島を日本に引き渡す形で日ロ平和条約の締結が可能だとのシグナルを送ってきた」と分析した。この分析は間違っていなかったようだ。
ロシアのプーチン大統領が6月4日、世界の主要通信社代表とリモートでの会見を行った。この会見では、共同通信の水谷亨社長がプーチン大統領にロシア憲法改正と北方領土問題の関係について質問した。
〈ロシアのプーチン大統領は4日、北方領土問題に言及した上で、憲法改正で領土の割譲を禁止する条項が盛り込まれたことについて「考慮する必要があるが、日本との平和条約交渉を停止しなければならないとは思わない」との見解を示し、「交渉を継続する用意がある」と言明した。世界の主要通信社トップとのオンライン会見で共同通信の質問に答えた。/昨年7月の憲法改正以降、プーチン氏が日本との平和条約交渉の継続を明言したのは初めて。/プーチン氏は、北方領土問題で日本の主張が2島返還、4島返還と二転三転したと批判した上で、4島引き渡しについて「ロシアもソ連も一度も同意したことはない」と述べ、あり得ないとの認識を示した。/ロシアでは改正憲法で領土問題を巡る対日交渉が禁止されたとの主張が出ていた。ただ、プーチン氏の本意は領土問題解決ではなく、米欧との関係が著しく悪化する中、平和条約交渉を拒否して日本との関係も悪化させる事態を回避する判断とみられる。/プーチン氏は「日ロは戦略的に平和条約締結で利害が一致している」と強調、「両国民の利益に合致する善隣関係を築かなければならない」と述べた。/また、米国を念頭に「日本の同盟国が日本の領土にミサイル配備を計画しており、ロシアを脅かす恐れがある」状況下で、「この(領土)問題をどう解決できるのか」と述べ、日米同盟と在日米軍を暗にけん制。日本はロシアの懸念に明確に回答していないと批判し、安全保障問題が平和条約交渉の障害になっているとの主張を繰り返した。/会見にはAP通信やロイター通信、新華社など16社の社長らが参加。共同通信からは水谷亨社長が出席した〉(6月5日、共同通信)。
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