「社員の成長なくして企業は成長できない」 インタビュー/サントリーホールディングス社長 新浪剛史

──米蒸留酒大手のビーム(現ビームサントリー)を1.6兆円で買収してから5年。統合の進捗をどう評価していますか。
非常に順調です。回り道のように見えますけれども、これまでサントリーの「根っこ」や価値観をビームサイドに浸透させることを最優先にやってきました。
日本でも、外国企業を買収することで規模を大きくしている企業は多いわけですが、そのときに大事なのは、自分たちのアイデンティティーを買収先の企業の社員にも浸透させることです。
サントリーでは、つねに新しいことに挑戦し、お客様や社会にそれをエンジョイしてもらおうという企業文化がある。この考え方を、サントリーでは「やってみなはれ」と称しているわけですが、これはビームでもそのまま日本語で広めています。
もちろんビームにはビームの歴史がある。けれども、私たちの考え方をビームの皆さんに理解してもらうことが重要。何度となく社員を派遣して、サントリーの価値観を伝えています。私が社長に就任してからつくった「サントリー大学」にも来てもらって、「やってみなはれ」っていうのはこういうことだと、いろいろな事例を教えています。さらに「やってみなはれ大賞」という賞を創設して仕事の結果を表彰するなど、あの手この手でわれわれの創業精神を浸透させようとしてきました。
この点については、コストと時間をものすごくかけた。心がけたのは「急がば回れ」ということ。別の言葉でいえば、(サントリーの宣伝部門にいた作家の)開高健氏もよく使っていた「悠々として急げ」ということです。
考え方の共有から入るのはまどろっこしいことですが、それを避けてはダメ。根っこが同じ集団が集まると、とりわけものづくりの世界においては強いんですよ。
ローカル単位では独自に
──価値観を押し付けると反発を買うのでは?
いやいや。押し付けるということではありません。根っこの部分を共有しても、ビジネスの具体的な方法はローカルで違いますから。ローカル単位で独自に考えさせるということも大切にしないとダメなわけです。
たとえばハイボールの作り方一つとっても日本とアメリカでは全然違う。日本ではルールを決めて、作り方を標準化しようとする。それに対してアメリカでは、さまざまなアレンジをしてお店ごとに工夫する。これを止めたりはしない。大いに結構。それも「やってみなはれ」ということです。

──買収金額は巨額です。人員削減などドライなコストカットを一気にやる経営者が多数派かもしれません。
買収というのは一般的に高く買うもの。でも高かったからといって慌てるのはいちばんよくない。アメリカの企業は確かに短期的な成果を狙う場合が多いように感じます。人員削減などによって短期的に業績をよく見せて、高額な報酬をもらって経営から去る、というのはある見方では正しいのかもしれない。でも、私はそういうやり方はしません。ビームという企業に、いわゆる“サントリーイズム”を植え付けることが統合の成功につながるのだと買収当初から信じていましたから。
結果的にビームの社員もサントリーのやり方に共感してくれて、社員にアンケートをしたところ約9割の社員が「サントリーと一緒になってよかった」と言ってくれています。
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