その精神の源流は儒教ではなかった
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
16世紀の宗教改革で生まれたプロテスタントの禁欲的な職業精神が近代工業社会の淵源にある。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが20世紀初頭に著した『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は広く知られる。
その西洋型資本主義の制度を移植したのが日本の資本主義の始まり、というのが通説だが、それは物語の半分に過ぎないとして、日本経済論の大家が「日本型資本主義の精神」を論じた。もの作りへの強いこだわりや技能形成を重んずる労働市場、関係性重視の金融システムなど日本経済の源流を、鎌倉時代の仏教革新に求めた興味深い論考だ。
江戸時代は、消費財の大量生産を可能とする工場制機械生産以前の家内制手工業だったが、比較的高めの成長が続いた。海上輸送を中心とした交通手段の発達はその一因だ。ただ、それだけでは持続的成長は得られない。
市場経済の発展に適合的な正直、勤勉、倹約といった道徳規律が生まれ、信頼醸成や協働の高度化など社会資本が蓄積したからこそ、取引コストが低下し成長がもたらされた。その根底には、鎌倉時代に生まれた新仏教を源流とする、求道的職業行動に基づく精神が存在していたと論じる。儒教の影響とばかり思っていたが、仏教だった。
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