国家構造と国際関係からホロコーストを解明
評者 東京外国語大学大学院教授 渡邊啓貴
表題の「ブラックアース」とはウクライナの肥沃な大地のことを指している。ヒトラーは生存圏の主要地帯としてウクライナを想定したが、そこはまたホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)が始められた場所でもあった。本書の第一の主張は、ホロコーストはドイツ本国ではなく、むしろドイツの侵略によって国家が崩壊した地域、つまりドイツ国境外で圧倒的に多く行われたという点にある。ヒトラーの反ユダヤ主義という狂気から論じられることが主流のホロコーストについて、国家体制のあり方がしっかりしていた場合には、ユダヤ人の犠牲者は少なかったと著者は論じる。
その指標となるのは、市民権、官僚機構、外交政策がきちんと維持されている場合であった。ドイツのユダヤ人の多くは国内ではなく、「国家のない状態」の地域に移送されて虐殺された。アウシュヴィッツ収容所に論点が集中しがちなホロコーストの議論に新しい切り口を提示したのが、大きな意義である。
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