1月29日にマイナス金利政策が導入されたことで、黒田東彦総裁ら日本銀行の幹部が、連日国会に呼ばれ、対応に大わらわだ。
そのドタバタの中、中曽宏副総裁が2月12日にニューヨークで行った講演がたいへん興味深い。「金融政策と構造改革」と題した講演で、日本経済の潜在成長率が趨勢的に低下している点に触れた後、こんな試算を挙げている。
女性の労働参加率がスウェーデン並みに上昇し、すべての健康な高齢者が退職年齢を問わず働き続ければ、就業者数が年平均で0.4%増え、2015〜40年度に年平均で2%の実質GDP成長率が可能になる──。
「健康な高齢者が退職年齢を問わず働き続ける」とは、具体的には、80〜84歳の高齢者のうち、「問題なく日常生活を送っている」と答えている約6割の高齢者がみな働き続けることを想定している。
80〜84歳の6割が働く、という想定はどこまで現実的なのだろうか。総務省の労働力調査によると、1.1億人の日本の人口(15歳以上)のうち、約3割、3370万人が65歳以上の高齢者だ。働いているのはこのうちの730万人で、就業率は21.7%(15年平均)。15〜64歳の就業率は73.3%であり、その3分の1にも満たない。
65歳以上を5歳刻みで見ていくと、就業率は65〜69歳が41.5%と高いが、70〜74歳が23.9%、75〜79歳が13.6%、80〜84歳が7%、85歳以上になると2.8%と、年を取るごとに大きく下がっていく。現状7%の就業率を60%に引き上げる「80歳のハローワーク」がいかに極端なケースであるかがわかる。
もちろん、中曽副総裁は「この仮定がどのくらい現実的かという問題はさておき」と断っており、この例が反語的なシナリオであることを示唆している。つまり、経済成長の源泉の一つである労働力の増加はこの先もあまり期待できず、政府が目標とする2%成長を達成するには、労働生産性を引き上げるしかないというのが厳然たる現実だ。
労働の「質」も重要だ。65歳以上の高齢者は非正規という形態で働くことが多い。厚生労働省によると、15〜54歳では非正規から正規に移行する労働者の数が、正規から非正規に移行する数を上回っているが、55歳以上では非正規へ移行する数のほうが多い。
また、厚労省の「高年齢者の雇用状況」によると、70歳以上まで働ける企業は2万9951社で全体の約2割にとどまる。規模別に見ると、中小企業は21%なのに対し、大企業は12.7%と、中小企業のほうが70歳以上雇用に積極的だ。
中曽副総裁は講演でこんなことも述べている。「金融政策は決して万能薬ではない。経済成長には制度設計や経済システムといった視点が不可欠で、わが国の政府が、構造改革の継続を通じて、そうした制度設計面での役割を果たしていくことを強く願っている」。日本経済の課題を解決するボールは日銀から政府に投げ返されている。
























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