運動部だけじゃない、文化部もブラック化「本末転倒」な部活動の実態 文化とは、教員とは…忘れ去られるその「本分」

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だが大坪氏は、文化の本質は人と人が触れ合うことにあると考える。その点ではICTでできることにも限界があり、同じ場にいて支援する指導者の存在は欠かせないと説明する。

「教員免許を持っていて働いていない人や、文化庁の芸術家の派遣事業に登録しているクリエーターなども、地域クラブ指導者の候補になりうるでしょう。外部から時折来てくれるような巡回型でなく、地域密着型の指導者が望ましいと思います」

学校での決まったスタイルを維持しようとすると、指導者が務まる人の条件は厳しいものになる。だが文化部が運動部と違う点の1つとして、「文化は学校の外にもある」という点が挙げられるだろう。学校の文化部の内容だけが「文化」ではない。過疎地域の伝統芸能や工芸の担い手として、子どもが活躍している例も多くある。こうしたことをヒントにすれば、指導者は地域のお年寄りが最適任になるケースもあると大坪氏は語る。

「地元のお祭りや神楽なども立派な文化活動です。むしろ地域に根差し、社会に拠点があるのが文化の本来の姿ではないでしょうか。例えば吹奏楽部の強豪校から、顧問を務めていた教員が他校に異動になったとしましょう。すると今度は、その教員の異動先が新たな強豪校になる。所属する部が強くなった子どもたちには自信もつきますが、これでは、子どもの主体性を育て、地域を豊かにする部活動だとはいえません」

大坪氏によると文化部の地域移行にはまだ具体的な実例がなく、反対する人に成功事例を見せることが難しい状況だという。だが期待できる取り組みも行われている。

「香川県の高松市では、自治体がさまざまな分野のアーティストを『芸術士』として独自に認定し、NPO法人の協力の下、市内の保育所や幼稚園に派遣するという事業を行っています。1つの施設を1組のアーティストが担当し、長期にわたり定期的に来てくれるので、子どもたちは継続的に指導してもらうことができる。さらにアーティストにとっても収入が安定するというメリットがあり、かなり成功しているケースだといえます。こうした取り組みを、今後は小学校や中学校にも広げていけないかと考えています」

大坪氏は地域移行の最大の障壁を「部活動に心血を注いできた先生方でしょう」と予想する。

「新学習指導要領が施行され、教育内容は濃く、複雑になりました。教員はそれに対応するために自らの本分を自覚し、認識を変えることを迫られています。しかし部活動の顧問は校長の裁量によるところも大きく、学校の中から変えることを困難だと感じる教員も多いでしょう。地域移行実現のスピードは、理念的な難しさもあり、運動部よりゆっくり進むことになると思います」

まずは自治体、教育委員会、教員や保護者が一堂に会して話し合える会議体をつくり、議論を進めていくこと。そして少しずつでも成功事例をつくり、示していくことが第一歩になるという。現場の苦労をおもんぱかりながら、しかし大坪氏は変化の兆しを語る。外国人も増え、多様化が進む社会では、地域の文化を育む重要性がさらに高まるとみているからだ。

「異文化を理解するためにも、子どもたちをはじめ地域社会が豊かな文化を持ち、それに親しむことが大切です。社会はすでに文化・芸術を教育の手段ではなく、それ自体が目的となる価値のあるものだと認識し始めています。そうなれば文化部に求められるものも変わります。社会が先に変化することで、学校の中も変えることができると考えています」

(文:鈴木絢子、注記のない写真:elise/PIXTA)

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東洋経済education × ICT編集部

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