運動部だけじゃない、文化部もブラック化「本末転倒」な部活動の実態 文化とは、教員とは…忘れ去られるその「本分」
大坪氏は「部活動指導は教員の業務かどうか、それ自体がグレー」だと考えている。
主体性のない文化活動では「文化消費者」を育ててしまう
美術部や書道部など、文化部は個人で取り組むものが多い。作業に没頭する生徒を見守るため、顧問の拘束時間が長くなりやすいなどの課題があるという。また、いわゆる「ブラック部活」は運動部で問題になりやすいが、実は文化部にも無関係な話ではない。
「文化部でブラック化しやすいのは、合唱部や吹奏楽部などでしょう。集団で取り組むという点、全国コンクールなどでの成績が見えやすい点など、指導が過熱しやすい運動部との共通点が多くあります」
こうした部活動では教員の統率力が強く、その指示に子どもたちが従う形になっていることが多い。それはもはや、子ども主体の活動とはいえないのではないか。大坪氏が部活動改革を求めるもう1つの理由がここにある。
「文化や芸術は時代とともに変わっていくもので、決まったスタイルがあるわけではありません。でも学校の文化部のやり方には明確なスタイルがあります。それは文化・芸術を教育活動の手段として使ってきたから。中学校が荒れていた時代、子どもを押さえつけて学校に定着させる手段として部活動が使われてきたことと同じです」
大坪氏は、こうした文化部のあり方について、ずっと問題意識を持ってきたという。「文化部」と一口に言うが、そもそも文化・芸術とは何か。日本の社会ではこれまで、あまりその価値や意義が意識されることがなかった。例えば人気の漫画やゲーム、アニメは、文化・芸術でもあるが、大人が巧みにディレクションし、ヒットを狙って生産した「商品」でもある。こうしたコンテンツを主体性なく受け取るだけでは「文化消費者」にすぎず、真に豊かな文化活動とはいえないと大坪氏は危惧する。
「文化部の活動も、子どもを主体にせず教員が統率して行うと、やがて子どもは文化の消費者になってしまうのではないかと心配しています。子ども自身が、自分で作り出していいんだ、発信していいんだと感じられてこその文化活動です。地域移行は、そうした子ども主体の活動にシフトするチャンスになるといいですね。合唱でなくポップスだっていい。今までの型にこだわらなくていい。大切なのは、子どもたちの『やりたい!』という気持ちを受け止められる体制をつくることです」
大坪氏は、文化部の地域移行はとくに慎重に、自治体の経済状況や地域性を見極めて行う必要があると話す。図書館の規模や美術館・博物館の数、さまざまな公演の頻度など。人々が文化・芸術に触れる機会の多寡は、もともと地域差がとても大きい。それを無視して全国一律のやり方で地域移行を進めれば、必ず問題が生じるからだ。
「これまで教員の負担で安上がりに済ませてきたことを地域に移行するのですから、有料化は避けられません。文化庁も大学やNPO法人などの運営団体を募集していますが、政府や自治体の努力だけでは限界があります。地域の経済格差がそのまま教育格差になることを防ぐためには、民間の参入も重要だと思います」
大坪氏が民間企業に期待するのは、地域クラブの運営を社会貢献や慈善事業と捉えず、企業活動の一環として行う姿勢だ。
「例えば楽器メーカーが地域で音楽クラブを運営するのは、事業に直結する活動ですよね。こうした直接的な事業を持たない企業にとっても、地域クラブは人材育成につながり、利益をもたらすものになりうるはずです。企業の姿勢が変われば、地域クラブの費用負担も減らすことができるのではと思います。過去には文化・芸術は教育の手段でしたが、現在は文化・芸術そのものを学ぶ教育も求められるようになりました。お金にならないと思われてきたものが、多様化し、経済活動の中心に台頭してきたのです」
文化を経済と切り離さずに、企業活動の中でどう位置づけるか。大坪氏は「文化部の地域移行を議論するとき、これからの社会での文化のあり方についても考えるべき」だと続けた。
地域に根差し、社会に拠点があるのが文化の本来の姿
「ICTの活用は、文化の地域格差を埋めるための有効な手段の1つだと思います。公演をオンラインでつないだり、展示作品を共有したりと、離れた場所をつなぐことができるのは大きな利点です」