歴史学べるYouTube「現役ムンディ先生」人気の訳 「授業ノウハウが詰まった動画」社会人にも好評
また、多くの学校でよくあるのが、歴史の授業を古代から始めるものの途中で時間が足りなくなり、第2次世界大戦で1年が終わってしまうというケース。しかし、現代を生きるわれわれにとっては、戦後の現代史は重要な部分だ。「授業時間が足りなくなったり、駆け足になってしまいがちな現代史を授業動画で学ぶことができれば、今を生きる自分と歴史のつながりを確認できる」と山﨑氏は話す。
それだけではない。授業動画があることで、公立高校ならではの受験システムの「穴」を埋められる可能性もあるという。
「多くの学校では、まだ自分の適性や進路も定まっていない高校1年生の6〜7月ごろに文系か理系かを選択することになるのですが、『やっぱり自分は理系ではなく文系だ』と進路を変える場合もあります。そのため途中で文系に変更した場合、歴史の前半を教わらないまま受験に臨むことになり、不利益が生じます。そんなときも授業動画があれば、ある程度はカバーできるはずです」
山﨑氏の目的はYouTubeの再生回数を上げることではなく、さまざまな理由で授業を受けられなかった生徒に高校社会科の授業を届けること。そのため、ほかのYouTuberのような、再生回数を上げるテクニックは使わず、普段の授業と同じスタイルで収録する授業動画の配信にこだわっているのだ。
授業動画が、ほかの教員にとってのヒントに
山﨑氏が授業そのものを届ける動画にこだわる理由はもう一つある。
「公立高校の地理歴史教員は、世界史・日本史・地理と全科目を教えることになっています。しかし、それぞれの教員には専門性があります。大学時代に世界史を専攻していた教員が地理を教えているというケースもよくあります。また、自分の専門の科目を教えるときでも、教員経験が少ないと、教え方や話の組み立てなどで迷うことも。そんなとき、授業動画があれば、生徒の補講用として使えるだけでなく、教員にとってもヒントや参考になるのです」
しかし、現役教員が動画配信を続けることに、周囲から反対などはなかったのだろうか。
「学校の先生たちは思った以上に皆さん応援してくださっています。というのも、教員は授業づくりのヒントをつねに求めています。しかし、研究授業の機会は限られていますし、ほかの先生の授業を見たりアドバイスをもらう機会も多いとはいえません。ですから、どんなヒントでも欲しいのです。そこで私の授業動画を1つのサンプルとして見てもらい、『このくらいのスピードで話せばいいんだな』『板書にはこのくらい時間がかかるんだ』など、よい面でも悪い面でも何かしらのヒントにしてもらえたらと思っているのです。それが全体の教育水準の向上につながるはずです」
チャンネル開設に当たっては、仕事や周囲に支障が出ないよう、対策を取っている。
「動画をアップすることについては弁護士さんと相談し、どの範囲までできるかを確認しました。そこでわかったのは、『広告は入れない』『特定の学校名や生徒の名前を挙げない』などを守って公共の福祉に反しない限りは、公立学校の教員も授業動画を上げられるということ。むしろ、『公立学校の教員は全体の奉仕者。授業動画やノウハウを広く公開するほうが、公立学校の教員のあり方としては正しいのではないか』と考えました」
これまで世界史と日本史で各200本、地理で178本の授業動画を制作している山﨑氏。普段の授業やコロナ禍による休校時に、授業動画を活用することはあるのだろうか。