「学校図書館」デジタル化阻む紙信仰と3つの壁 探究学習や多読と相性抜群のコンテンツとは
同社はこの4月から、コンテンツを学校教育に特化した『ジャパンナレッジSchool』というサービスも始めています。児童生徒1人ひとりの端末やスマホで辞書が使い放題になるので、調べ学習や探究学習にも使いやすい。こうした1人1台時代に適したコンテンツのほか、新聞データベースなどもそろっているといいですね」

高大連携の観点からも「レファレンスツールを導入すべき」と植村氏は強調する。実は、大学図書館は20年以上前から電子ジャーナルや機関リポジトリ、データベース提供サービスなどの構築に取り組んでおり、電子化が進んでいる。今や理系も文系も各種データベースを扱うことが当たり前の時代となった。また、レファレンスツールを学外からもアクセスできるようにしている大学は多いため、コロナ禍で休講が続いた時期も学生たちは自宅で調べものができたという。
ちなみに植村氏が所属する専修大学では19年に「ジャパンナレッジLib」への学外からの同時アクセス数を無制限にし、全学生がいつでもどこでも使えるようにした。紙の本は誰かが借りていると読めないが、電子書籍やレファレンスツールは、契約さえすればマルチアクセスが可能となる。「この点も電子図書館の大きなメリット」と植村氏は話す。
一方、ほとんどの高校では電子化された情報資源を使っていないため、大学に入ったときに戸惑う学生も多いという。「この高大の大きなギャップを埋めるためにも、レファレンスツールくらいは契約してほしい」と植村氏は話し、こう続ける。
「情報リテラシー教育の観点からも、学校は信頼・安心できるデジタルコンテンツを子どもたちに提供すべきです。近年子どもたちのスマホによるトラブルが増えていますが、それは小中学校でスマホの持ち込みを制限しているからです。端末活用の前に『正しい使い方を教えるので、学校にスマホを持ってきなさい』と情報リテラシーを教えるのが先ではないでしょうか。
そこが抜け落ちているため、いまだに大学の先生は『“Wikipedia”だけの引用は駄目』といった初歩的なことから教えています。誤った医療情報を掲載してデジタルコンテンツの信用を毀損した『WELQ』のようなひどいサイトも生まれてしまいましたが、その背景には利用者の情報リテラシーが低かったことも一因に挙げられますね。
そろそろ学校がコンテンツの信頼性について教えるべきではないでしょうか。その際、レファレンスツールなどが学校図書館にあると、信頼・安心できるコンテンツとは何かということを示せると思います」
まずは無料コンテンツを活用するという手もある。例えば、20年夏にリリースされた「ジャパンサーチ」。国立国会図書館を中心に、国内の美術館や博物館などさまざまな分野のデジタルアーカイブと連携した検索サイトだ。
「昨年から、先進的な先生たちの間でこの『ジャパンサーチ』を探究学習に使うという動きが急速に広まっています。博物館に行かないと得られなかった情報が学校で手に入り、数が限られた辞書を使い回すよりも『主体的・対話的で深い学び』が実現できる。これは明らかに今までの教育ではできなかったことです」
「1人1台端末」本格活用までの3つのステップ
しかし、小中学校で「1人1台」の端末が整備されたとはいえ、学校図書館がこのICT環境を活用して教育課程の展開に寄与するためには、まず教育現場が3つの壁を乗り越える必要があるようだ。1つ目は端末とネットワークの問題解決が必要だと植村氏は指摘する。
「昨年大学はオンライン授業を行い、おそらくどこも一度はサーバーダウンしていますが、どんどん増強していきました。小中高でも『サーバーが落ちた』『安い端末なだけに使いにくい』などの問題がこれからもっと出てくると思いますが、これはお金と技術で解決できること。国や教育委員会が予算をつけて改善することが大切になります」