池袋駅とサンシャイン結ぶ「LRT」構想の全貌 "新型路面電車"が狙う、楽しい乗り物とは

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都電荒川線の「花電車」。見た目は楽しいが「乗れない」(写真:記者撮影)

観光目的であれば、LRTでなくてもいいようにも思える。たとえば、北九州市門司区では、門司港駅と関門海峡トンネルを結ぶ観光トロッコ列車を運行し、人気を博している。ただ、「乗って楽しむとはいえ、池袋は1日の駅の乗降客数が250万人以上の都会で、サンシャインなどほかの派生需要からくる乗客も多い」(溝口氏)。池袋にやってくる大量の人をさばくという点で、ある程度は輸送能力は必要なようだ。

気になるのは導入にかかる費用や採算性だ。LRTの導入費用は85億円程度が想定されている。うちインフラ建設にかかわる80億円は区が、残りの5億円は運行を担う民間が負担する。区の負担分の半分は国が補助するという想定だ。導入費用はともかくとして、毎年の営業収支が赤字では、わざわざ導入する意味がない。

新宿や渋谷にない乗り物がほしい

高野区長は「採算性はまったく白紙」と言うが、「採算が取れないはずはない」と、鉄道コンサルティング会社・ライトレールの阿部等社長は断言する。「世界第2位のターミナル駅である池袋駅と、毎日10万人近くの来訪があるサンシャインシティを結ぶ便利な交通システムを作れば、多くの利用が得られる。将来は都電に乗り入れて池袋と早稲田を直結すれば、より多くの利用を期待できる」。

既存運行ルートの大半は区道であり、新たな用地取得はほとんど必要ない。ただ、都道と交差する部分のみ都から道路使用許可を得る必要がある。現在、交渉は難航しているもようだが「LRTを活用した街づくりの意義をよく理解している小池氏が都知事になったことで、交渉が進むかもしれない」と期待する声も地元にはある。

2006年の富山ライトレール以降、新たなLRTは登場してない。しかし、次のLRTの最右翼とされる宇都宮市の計画について、9月8日に運輸審議会が「認定が適当」と答申したことで、宇都宮市のLRTは実現に向けて大きく動き出した。

その宇都宮市にしてもこれまで多くの紆余曲折があり、いまだに反対論も根強い。池袋のLRT計画にしてもすんなり進むとは限らない。国が宇都宮市のように必要性を認めるかどうかも未知数だ。それでも、富山の次のLRTの登場は、池袋にとっても追い風になりそうだ。

「住民の足」としてLRT導入を目指す人たちと話をしていると、そこには「どうしても必要だ」という切迫感がある。今までLRTがなくても困らなかったのになぜそこまで熱心に活動するのだろうか。

「池袋は長らく都会の辺境と思われてきたんです」と、溝口氏がその理由を解説してくれた。東京を代表する巨大エリアでありながら、新宿や渋谷と比べて格下に見られてきたというくやしさが、池袋の住民にはあるという。しかし、戦前には若き芸術家たちが多く移り住み、独自の文化圏「池袋モンパルナス」を形成するなど、池袋は誇り高い地域でもある。「新宿や渋谷にはない独自の魅力ある街を形成したい」。池袋に住む人たちが胸を張って誇れる乗りもの、それがLRTなのかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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